183話:さらにその上
そろそろ夏休みも終わりに近づいている今日この頃。
ハーヴェは領地の視察と騎士たちの稽古で今日は忙しい日々だそうだ。
せっかくならと、私は今日アモル様たちのいる方で過ごすことにした。
お土産に、箱いっぱいのブドウを持参して。
「美味しい?」
「オイシイ!」
あの時のアモル様の子供たちも、拙いながらも言葉を話すようになってきた。
なんだか子供の成長を感じて嬉しく思ってしまう。
「トレーフル、休みは楽しいか?」
「はい。葡萄もマスカットも美味しいし、のんびり毎日過ごしてます」
「そうか」
「はい。ただ……」
こんな平和的な日々を過ごしている中で、ふとした時に過去の記憶が蘇る。
幼い頃の誘拐事件に、試験中のアンデットドラゴンとの戦闘、そして死の天使リネアとの戦闘。
自分の力を過信しすぎてるわけじゃないけど、悔しさは残っている。
叶うことなら、誰の犠牲も出さずに戦いを終えたいと思っていた。
だからこそ、あの時私は思った。ヴァルのあの圧倒的な力が羨ましいと。
「アモル様、もっと強くなりたいと口にするのは強欲でしょうか」
「……お前は十分強い。魔法だけではなく、剣術も武術も強い。それでも、それ以上を望むのか?」
「……大きすぎる力には代償が付いてくる。それをわかっていても、私は力を手に入れたいです。アモル様もわかっていますよね。私は、みんなが幸せになることを望んでいるんですから」
それはずっと昔から変わらないことだった。
もちろん、みんなが言うように私自身の幸せも私は願っている。
前世では叶えることができなかった結婚や出産。たくさんの家族に囲まれる幸せな日々を夢見ている。
だからこれは、それを手に入れるための、私の強欲だ。
「……そうか。我の気持ちは変わらぬが、お前がそう望むのであれば1つ伝えよう」
地についていたアモル様の手がゆっくり伸び、彼の指先。爪の部分が私の胸を軽く指してきた。
「お前の魔力は、まだ上がある」
「上、ですか」
「今でも魔力量は多い。血筋の影響だろう。だがお前の魔力は今以上に巨大な物だ」
「どうしてっ!……どうしてそれがわかるのですか?」
「……無意識なのだろう。その魔力をお前自身が封じ込めている。おそらく、幼少期の魔法の暴走時に」
前世を思い出すことになったあの巨大な魔法暴走。
あの時に、私が無意識に自分で自分の魔力を封じ込めたことになる。
そんなことが可能なのだろうか……。
「ここはあっちとは時間の流れが違う。その魔力も踏まえて、自分で出し入れできるようにすることは可能だ」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ。我も、友の望みとあれば力をかそう。それに、一つ面白い魔法をお前に教えてやろう」
アモル様の知っている魔法。
長い年月を生きてきたアモル様が知っている未知の魔法というものに、私は胸を高鳴らせた。
「よろしくお願いします!」
「あぁ。……きっとお前は、あやつのようになるかもしれんしな」
未知の魔法に興奮している私には、アモル様のその言葉は聞こえていなかった。