182話:尊敬する人からのお願い(アンジュ視点)
夏休みに入って数日が経ちました。
私は今、プラテリア家にお世話になっています。
三代騎士家系の一家門であり、シルビア様のお母様のご実家でもあります。
騎士家系ということで、ご当主様もキリク様のご兄弟もすごく剣術がお強い。そんな中で、キリク様はあまり剣の才能には恵まれなかったようで、幼少期は少しだけ肩身が狭い思いをされていたそうです。しかし、キリク様はその分とても知的な方なので、剣術以外の部分でご当主様のお力になっているそうです。
私も、キリク様のお力になれるように、日々勉強の毎日です。
休みの間は、キリク様がたまにご当主様の仕事のお手伝いをし、私は奥様のお話し相手としてお茶会に参加する日々が続いていました。
そんなある日、私の元に一通の手紙が届きました。
「トレーフル様から?」
それは、現在カルシスト家の別荘で婚約者同士水入らずで過ごされているトレーフル様からでした。
まさかトレーフル様からお手紙をいただけるなんて夢にも思っておらず、受け取るなりすぐに中身を確認しました。
別荘での暮らしは充実しており、現在は新作の執筆をされているそうです。
そして、その新作の表紙絵を私に頼みたいとのことでした。
手紙と一緒に、表紙の構図や指示書。物語の大まかなあらすじが書かれたものが一緒に同封されていました。
「トレーフル様からですか?」
「はい。次回作の表紙をお願いしたいそうで」
「それはとても光栄なことですね。次回はどんなお話なんですか?」
「えっとですね」
同封されていたあらすじを口に出してキリク様にお伝えした。
物語の内容は田舎の領地での男女の恋愛物語だそうだ。
領地は現在お二人がいらっしゃる別荘を題材にしているそうで、出てくる男の子と女の子は葡萄とマスカットをモチーフにしているそうだ。
「なんだか、見た目だけだとお二人のようですね」
「確かに!ふふっ、きっとトレーフル様、ちょっと複雑な気持ちでしょうね」
でも、なんだかんだトレーフルはハーヴェンク様のことが大好きですし、今回の作品はきっといいものになるでしょう。楽しみだな。
「早速お返事を書かないと」
「楽しそうですね」
「はい。トレーフル様の作品の一部になれるのは、ファンとしてとても嬉しいことです」
前世からの大ファンであることはキリク様もご存じなので、私の様子を見てとても嬉しそうにされいました。
表紙の件を引き受ける有無を記載した手紙をお送りし、時間が空いた時に、トレーフル様の作品がたくさんの目に留まるような素敵なものになるように色々な物を描いていった。
こっちに来て、あまり絵を描く機会もなかったので、この時間は私にとってはとても幸せなことでした。
「さて、それじゃあ次はどんな構図にしましょうか」