179話:魔法と剣術
別荘に来て数日。
私はここでの生活を堪能していた。
甘いお菓子を食べて、小説の参考に領地の中を見て周り、その中で領民たちとも親しくなった。
学園ではハーヴェと一緒に過ごす時間はあまりないけど、ここではよっぽどのことがない限り基本的に二人でいることがほとんどだ。
ハーヴェは相変わらず私に甘く、私も恥ずかしながらもそれを受け入れている。その様子が使用人たちには微笑ましく見え、気遣って声をかけたりしてこなかった。
今日は日々の甘いお菓子分のカロリーを消費するために、ハーヴェに剣術の相手をしてもらった。ついでに改善した身体強化魔法の実験にも協力してもらった。
「ぐっ!」
「ほら、隙だらけだよ」
手に持っていた木剣は空高く舞い上がり、重力に素直に従って地面に落ちる。
やっぱり、身体強化したとはいえ、純粋な剣術ではハーヴェには勝てないな。
「はぁ……やっぱり、魔法なしの剣術はどう足掻いても勝てないな」
「そうじゃないと僕が困るよ。剣術でも勝てないってなると、僕の立場がない」
「でもやっぱり悔しいな」
「殿下も稽古するたびにいつも言ってるよ。やっぱり従兄妹だよね」
「……前から思ってたけど、ハーヴェってルヴィーにも敬語だよね」
「え?まぁ、そうだね」
「公式な場所とか、人目があるところならわかるけど、私たちと一緒にいる時もそうだよね」
私とルヴィーとハーヴェとシルビア。
私とルヴィーはまぁ従兄妹だけど、いうなれば私たち4人は幼馴染。
私は3人に対してタメ口で、愛称や名前呼び。ルヴィーも同様。
でも、シルビアはまぁ性格上そうだからいいとして、ハーヴェも私以外の二人には様だったり、殿下と呼んでいる。長い付き合いの中で、ハーヴェがルヴィーやシルビアを親しく呼んだり、タメ口で話してるところは見たことがない。
「一応僕は臣下だしね。シルビア嬢は、これでも結構親しく呼んでるつもりだよ」
「そう、なの?」
「うん。確かにタメ口で会話をするのは家族以外だとレーフやアルだけだけど、それはあくまでレーフの前ではって感じかな」
「それって、私がいないところでは呼んでるってこと?」
「んー、想像にお任せするかな」
え?想像にお任せしちゃっていいの?ダメなこと考えちゃうよ?
私のいないところでは呼んでる。ルヴィーとハーヴェが……
「レーフ?今変なこと考えたでしょ?」
「え?いや……別に」
「こーら、目を逸らさない。僕の目を見てちゃーんと言って」
「ハーヴェの言い方が悪いと思うのですが?」
「やっぱり考えてたんだ。悪い子だな」
「わー!!変なとこ触らないで!!」
まぁ変なことを想像はしたけど、二人が親しくやってるのは嬉しい。
私が見てないところでってのは納得いかないけど。
「ほら、もう一本やろう。剣術稽古なんて、レーフは滅多にできないでしょ」
「んー!次は勝つ!」
「そうだね。がんばれがんばれ」
「もぉー!バカにしてるでしょ」
その後も何本か稽古をして、いい感じに汗をかき始めてきたので、今日はこれで終わりにした。結局一本も取れなかった……。
「これだけ強いと、剣舞祭の一年代表枠は決まりだね」
「あはは、そうだといいな」
「謙遜は時に嫌味となりますよ。ちなみに、私は魔法科の代表枠に入る自信がある」
「レーフ、自身は時に嫌味となりますよ」
お返しと言わんばかりに満面の笑みで言い返してくる。
とはいえ、私もハーヴェも代表枠は硬いでしょ。後は、シルビアとルヴィーかな。
身分云々言われるかもだけど、実際私たちの実力は他の生徒と逸脱している気がする。自分で言うのもアレだけど。
剣舞祭は大きなイベントで、国内の貴族はもちろん、他国のお偉いさんも来るそうだ。雨龍様も来るのだろうか。
「最後の各学科の優勝者同士の試合も楽しみだね」
「そうだね。もしそれが、僕とレーフだったら何か賭けをしようか」
「わかんないよ。ルヴィーが優勝するかもだし」
「もしもだよ。ただ、僕の予想では魔法科の優勝は絶対にレーフだとおもうけどな」
「ん?どうして?」
未来予知ができるわけでも、何か確証でもないだろうに。どうしてそんなことを言うのかわからないけど、感覚的には私も似たようなものだ。
騎士科の優勝は、絶対にハーヴェだと思う。私がそう思うのと同じ。
「まぁ、そうなったら別にいいよ。賭けか……何にしようかなぁ」
「ふふっ、僕もそうなった時ように考えておくよ」
「うわー、嫌な予感」
「失礼だな。レーフが嫌がるようなことはしないよ」
どこか楽しそうに笑う彼に、私は嫌な予感しかしなかった。
とりあえず、剣術をもっと磨くのと、魔法も色々覚えて対策を練っておかないといけないな。