177話:紫の男の子と緑の女の子
食事を終えた後、ハーヴェは少し屋敷内の訓練所で稽古をしてくると言っていた。私も行きたいと言ったのだけど、メイドたちが私がここを気に入ってくれるようにと、たくさん葡萄とマスカットのお菓子を作ってくれているそうだから、私は新作の小説を書きながら、そのお菓子を堪能することにした。
「まさか、トレーフル様があのトル・レーフ先生だとは!」
「私、大ファンなんです!」
「ありがとう」
この屋敷の使用人はそんなに多くはない。
その分、優秀な人たちが管理をしている。
最初に私たちを出迎えてくれた執事さんがここの管轄をされているそうで、屋敷の管理と領地の管理を行なっているそうだ。
「今度の新作はどのようなものを書かれるのですか?」
「ハーヴェにこの領地をモデルに書く許可をもらったから、ここを舞台にした恋愛ものかな」
「まぁ、それはとても素敵ですね」
「ここで働くものとして、とても嬉しいです」
キャッキャする彼女たちをみてると、やっぱり恋愛ものは女性ウケがいいなと思う。
とはいえ、せっかくここを舞台にするのだから、ここで栽培している葡萄やマスカットの宣伝もしたいよね。どういう話にしようかな。
「そういえば、葡萄とマスカットって、なんだかハーヴェンク様とトレーフル様みたいですね」
「え?」
「確かに。髪色がそれぞれの色なので、なんと言うか運命的ですよね」
なるほど、確かに言われればそうだな。意図せずハーヴェのもう一つの要望の私たちをモデルにって言うのは見た目だけなら叶いそうだな。
それじゃあ、紫の髪の男の子と、緑の髪の女の子の恋愛ものにしようかな。
「んっ!このタルトすっごく美味しい。タルト生地にカスタード、葡萄のジャムに果肉。とっても贅沢ね」
「気に入っていただけて嬉しいです。メイドたちで色々と試行錯誤して作ってるんです」
「でも、試作品を作るときはいつも食べ過ぎて太ってしまうんですよね」
「だからそのときはいつも、バリバリお仕事をして体を動かすんです!」
食べた分だけしっかり運動。わかる。美味しいものばかり食べて、全く何もしないとあっという間に太っちゃうよね。女の子の悩みの種だよ。
「明日、領地を回っても問題ないかしら」
「もちろんです。領民たちもきっと喜びます!」
「是非とも、畑と加工施設を見ていってください」
「そうさせてもらうわ。ありがとう」
小説のいい取材になるし、何より出来立てのジュースやジャム、ワインなんかが飲めるかもしれない。とっても楽しみだな。
「トレーフル様、こちらも召し上がってみてください」
「あ、こちらは最近完成した新作なんです」