176話:白青の屋敷
「いらっしゃいませ、ハーヴェンク様、トレーフル様」
ハーヴェに手を取られ、見上げた屋敷は白と青色の涼しげな屋敷だった。
お庭も丁寧に整備され、水路のようなものも多くあり水のおかげか涼しく感じる。
「夏の暑い日はよくここで家族と過ごすんだけど、今回は特別に僕とトレーフルで使っていいと父上に許可をもらったんだ」
「素敵……」
「気に入ってくれたみたいでよかった」
「ハーヴェンク様。現在食事の用意をしております」
「わかった。先に部屋に荷物を置いてくるよ」
「かしこまりました。それで、お荷物は……」
使用人たちがキョロキョロしたり、馬車の中を確認する。
荷物がない気こと、そして馬車を引く業者がいないことに首を傾げていた。
「あぁ荷物はトレーフルの空間魔法で収納している。馬車も、彼女の魔法で自動運転だったんだ」
「……左様ですか。トレーフル様が魔法の才能をお持ちだとはお聞きしていましたが、まさかこれほどとは……」
そんなに感心されるとちょっと嬉しいな。
最近は、私がどんな魔法を覚えても対して驚かれないから、ちょっと新鮮だ。
案内された私たちの部屋は隣同士。だけど、部屋の中にお互いの部屋を行き来できる扉がついている。
「わぁー、すっごい景色」
部屋のバルコニーからは、屋敷に来るまでに見えていた葡萄畑が一望できた。
加工するための施設も見えて、こうしてみるとしっかり区分されていて、この景色を見るだけでも価値がある気がする。
「気に入ったかい?」
いつの間にか私の部屋にやってきたハーヴェが後ろから抱きしめてそう尋ねてきた。
とっても気にいった。別荘もそうだけど、この景色もとても素敵だ。
これは、次の小説の舞台にしたい。
「ねぇハーヴェ。次の小説なんだけど、この領地を舞台に書いていい?」
「ん?それは構わないよ。その代わり、恋愛ものでなるべく僕とトレーフルのことを書いてほしいな」
「んー、恋愛ものは検討するけど、私たちをモチーフには難しいかな」
「それは残念。でも、楽しみにしてるよ。ちなみに、小説を書くのは僕がいないときね。僕がいる時には書かないでよ。寂しくて死んでしまいそうだ」
「ふふっ、わかった。そうする」
笑い合いながら、抱きしめあった。
最近は、こう言った婚約者らしいことを自然とできるようになった気がする。
昔はやっぱり、前世のことがあったり、私が本当のトレーフルじゃないことに後ろめたさがあった。でも、いまはちゃんと自分がトレーフルであることを自覚して、この世界で絶対に幸せになるって気持ちが強くなった。
「……トレーフル様。ハーヴェンク様。お食事の準備ができました」
「あぁ、すぐに行くよ」
私の部屋なのに、どうして彼が私の部屋にいることを知っているのだろう……まさか、庭から見えていたのかな?それはちょっと恥ずかしいな。
「い、行こうかハーヴェ。どんな食事が出るんだろうね」
「……レーフ」
不意に名前を呼ばれて振り返った瞬間、手を取られ、腰を支えられ、唇に暖かくて柔らかな感触。そして、目の前に綺麗なハーヴェの顔があった。
ゆっくりと唇が離れ、呆然とする私にたいして、彼はくしゃりと笑みをこぼした。
「ごめん。我慢できなかった」
「……不意打ちはずるい」
「じゃあ、キスしたいって言ったらさせてくれた?」
「……た、ぶん」
「はは、無理しなくていいよ。僕はそこまで意地悪じゃないから」
「嘘つき。ハーヴェは十分意地悪だよ」
「そう?でも、レーフがそんな可愛い反応してくれるなら、もっと意地悪したいな」
「っ!もう、いいからご飯食べに行こう!」
ムッとした表情をしながら先に私は部屋を出た。後ろから微かに笑い声が聞こえ、その後に「待ってよレーフ」と、ハーヴェが追いかけてきた。