175話:無関心
馬車を出てしばらくは、私もハーヴェも無言だった。
私はただ、気持ちが若干無気力だったから。ハーヴェは多分私を気遣って黙っていたのかもしれない。だから、私が口を開かないとハーヴェも会話を始めないかもしれない。
「別の言い方って、あったと思う?」
「……いや。少なくとも、僕はあれは正解だと思う。何を言っても、多分あの人はわかってくれないと思うし」
「そう、だよね……」
何度も何度も、私が否定しても彼はずっと自分に都合のいい解釈をした。
いや、根本から考えよう。
どうすれば、そもそもあぁならずに済んだのか。
どうすれば……
「……ねぇハーヴェ。人が最も傷つくことってなんだと思う」
「え?んー……嫌われること?後は、大事な人が傷つくとか」
「そうだね。まぁ今回の場合大事な人が傷つくって言うのは別の枠組みとして、嫌われたり、怒られたり、そういうのはまだ相手に関心があるからいいことだと思うの」
構ってくれるならどんなことでもいい。怒られても、嫌われても。
そういう、ちょっと違う思考の人はたくさんいる。
だからこそ、私の中で人が一番傷つくことは……
「私は、「無関心」ってもっとも苦しくて辛くて絶望的なことだと思うの」
「……そっか」
ハーヴェは、それ以上何も聞かなかった。
私がどうしてそんなことを聞いたのか、何をしようとしているのか。
それ以降その話題は口にしなかった。
領地で何しようか、何食べようか。ハーヴェのおすすめの場所に行ってみたい、せっかくならワインを飲んでみたいとか、そう言うたわいもない話。
せっかくの二人でのお泊まりだから、今は余計なことを考えたくなかった。
領地へは数日かかるが、馬車は魔法を使って自動運転をしている。
同時に、防護魔法をかけているため、攻撃を受けても特に変わらず馬車は走り続ける。
交代で睡眠をとりながら、目的の領地まで馬車を走らせた。
「わぁ、すごい。あれ、全部葡萄畑?」
領地に入ったようで、窓の外には一面に広がる葡萄畑が広がっている。
奥には大きな建物があり、ハーヴェにあれが何か尋ねれば、ワインを作る施設だそうだ。他にもいくつか大きな建物があるが、それぞれの場所でジュースやジャムが作られているそうだ。
カルシスト家は騎士家系で有名だけど、一部ではここで作られるワインは一目置かれている。お父様も、ここのワインは好んでよく飲んでいる。
「楽しそうだね、レーフ。僕より葡萄の方が好きかい?」
「え?いや、ジャンルが違うって言うか……」
「あはは、冗談だよ。そろそろ別荘に着くよ。楽しいのはわかるけど、馬車が揺れるかもしれないから、ちゃんと座って」
と言いながら、向かいの席から自然と私の隣に座ったハーヴェ。
まぁ、別にいっか。本当の意味での二人っきりは、もう後少しなのだから。