173話:変わらない気持ち
その場しのぎのことかと思っていたが、本当にハーヴェはそのまま食堂でサンドイッチを買って、3人一緒に中庭で昼食にした。
さっきのことなどなかったように、いつも通り私に構うハーヴェ。ミセリアはちょっと気まずそうだけど。
「ありがとう、ハーヴェ」
「ん?あぁさっきの?むしろ助けるのが遅くなって申し訳ないよ」
「ううん。そんなことない。ほんとに助かった」
もしあの場でハーヴェがこなかったら、多分私はクロイツ殿下を感情のまま殺していたかもしれない。
執着されていたことよりも、ミセリアやハーヴェのことを馬鹿にされたことがたまらなく腹立たしかったからだ。
「ミセリアもごめんね、嫌な思いさせた」
「あ、いや……むしろ、役に立てなくて、ごめん」
「いや、僕からも謝罪するよ。もっと早く駆けつけていれば、ミセリアが嫌な思いしなくて済んだのに」
「そんな!二人は何も悪くないし、ぼ、僕の力不足だから!」
謙虚なのはミセリアのいいところだ。
でも、本当にミセリアには感謝してる。怖かっただろうに、必死に私を守ろうとしてくれた。どんなに侮辱にされても、それでも頑張って止めようとしてくれた。
本当に、私はいい友人を持ったな。
「あの人、もう付き纏ってこないでしょうか?」
「どうだろう。流石にアモル様まで出てきたってなると、普通なら近づかないよね」
「普通なら、ね。まぁ用心することに越したことないよ。それにしても、こんなにも僕がレーフを愛していて、レーフも僕を愛してるのに、その間を裂こうだなんて酷い話だよね」
甘えるように、肩に頭を乗せてくるハーヴェ。
そういえば、こうやってハーヴェと一緒にいるのはいつぶりだろう。
学園にもどってからも、あまり一緒にいる時間もなかったし。むしろ、他のメンバーとの時間のほうが長い気がする。
「南の国の恋愛観は僕も好きじゃないんだよね。たった一人に愛情を注ぐほうが簡単で楽なのに」
「あら、ハーヴェは私にそんなことを思っていたの?」
「冗談だよ。大体、僕はレーフ以外に注ぐ愛情なんて持ち合わせてないよ」
「そりゃどうも」
「ねぇ、トレーフルは?」
ゴロンと私の膝に頭を乗せ、私の頬に手を触れる。
そばにミセリアがいるというのに、お構いなしって感じだな。
「聞く意味ある?」
「君の口から聞きたいな」
「……私も、ハーヴェ以外に注ぐ愛情は持ち合わせてないよ」
「ふふっ、それは嬉しいな」
「ごめんねミセリア、気まずいでしょ」
「そ、そんなことないよ!ただ、みんなをみてるといいなーって思う。僕も、ハーヴェやキリク、ルーヴィフィルド殿下みたいに、全ての愛情を注ぎたいと思える相手を見つけたいよ」
私たち3組の恋愛は、同世代では理想的な恋愛と噂されていた。
たった一人に注ぐ無償の愛。目移りなんて絶対にしない、愛した人を一生愛し続けるような恋愛が、まさに夢物語のようだけど、全員が口を揃えてそうでありたいと口にする関係。
私の場合は、ハーヴェの愛情が器に溢れるぐらい注がれるため、器を大きくするのがとても大変だ。
「ミセリアにも現れるよ。もしかしたら、案外近いところにいるかもね」
「あはは、そうかな」
「僕もそう思うよ。ミセリアにもきっと、いい出会いがあるさ」
昼食を終え、一休みをした後、私とミセリアは新しい魔法の勉強のために図書室へ。ハーヴェは午後の授業を受けに騎士科の教室に向かっていった。