170話:ご機嫌斜め
優しい日差し、穏やかな風。
騒音がなく、聞こえるのは動物の声。
私たちの世界とは異なる神獣たちの世界。ここはいつ来ても心穏やかになる。
「フォルティトゥドー様、気持ちいいですか?」
「ん」
「まぁアンジュちゃん、とても器用ね」
「ありがとうございます」
長い間ここに訪れることもなく、久々にシルビアとアンジュを誘ってこちらへとやってきた。
初めて会った時は、とても小さかったアモル様の子供も、彼には劣るがすっかり大きくなった。
口なんて、私の頭をすっぽり飲み込んでしまう。
「はぁ……」
「アンジュちゃん、トレーフルちゃんは随分擬機嫌斜めだけどどうかしたの?」
「あ、えっと。実はですね」
私がここに来たのには理由があった。最近、精神的ストレスが大きいからだ。
その原因が、あのクロイツ殿下だ。
あの日から何度も何度も私のところに来てはしつこく声をかけてくる。
何度も何度も何度も断っているのに、彼はまるで何も聞こえていないように変わらずヘラヘラとしながら私のところにやってくる。
「まぁ、なんて人間なの。しつこい男は嫌われるわよ」
「先生方や、キリク様、ルーヴィフィルド様もお止めになっているんですが、聞く耳を持たず……」
「面倒な人間ね。トレーフルちゃん可哀想」
「平気です。もう少しすれば夏休みに入りますし。残り数日の辛抱です」
「……苦しい時は我を呼べ。見ている限り、あれはお前を下に見ている。我にとっても不愉快だ」
「ありがとうございます、アモル様」
首をグッと伸ばし、私を慰めるようにお顔を私の頬に当ててくださった。
本当に、アモル様はとても優しい。もちろん、ほかの神獣様もだ。
おかげで少しメンタルが回復した気がする。
「それじゃあ、そろそろ戻ろうか」
「そうですね。あまり長居すると晩御飯を食べ損なってしまいます!」
「フォルティトゥドー様、また伺いますね」
「……うん」
3人と、アモル様の子供達に手を振り、私たちは領域を後にした。
日はすっかり沈んでおり、私たちはそのまま食堂へと足を運び、晩御飯を食べることにした。