164話:手紙
レインウィークも終わり、季節は徐々に夏になり始めた。
そろそろ制服も夏仕様のものに変わり始め、今は自由期間。夏服でも冬服でもどっちを着ていいということだ。
私はまだ肌寒く感じるから冬服を着ている。アンジュやシルビアも冬服。
というか、基本的に魔法科は冬服、騎士科が夏服って感じだ。まぁ、あっちは実技メインで体を動かすからそうだよね。
「トレーフル様、これなんですか?」
「ん?あぁこれはね……」
現在、私たちは目前に迫っているテストに向けて勉強中である。
お互いに苦手分野を教え合いながら、上位目指してもう勉強中。
今は女性陣3人で一緒にやっているが、しばらくすればルヴィーとキリクもやってくる。
「あっ、シルビアそのハンカチって」
「はい。殿下が桜華のお土産で下さった反物でつくりました」
「わぁ、レースが可愛いですね。というか、細かい!」
「嬉しくてつい、夢中で作ってしまって」
「愛だね」
「愛ですね」
嬉しそうにするシルビアに、私もアンジュもほんわかしてしまう。
ちなみにアンジュは、キリクにお土産としてメガネストラップをあげたそうだ。
着物の帯紐と同じ紐を使って、細かい細工がされたガラス細工が装飾されているもので、もらったその日からキリクは毎日のようにつけている。
そっちも愛を感じた。
私は、ハーヴェに簪をもらったけど、普段使いするには勿体無い代物なので、特別な日にしかつけないようにしようと思ってる。
「他の生徒も、私たちと同じようにテスト勉強にこられているみたいですね」
「そうですね。学園のテストは難しいって聞きますし」
「そういえばトレーフル様。アルヴィルス様からお手紙をいただいていましたよね?」
「あ、そうだった。アニーに朝もらってたんだった」
「急ぎかもしれませんし、今読まれては?」
「いいの?」
「私たちのことは気にしないでください」
「そうです。それに、トレーフル様はずっと私たちの勉強を見てくださっていましたから、少し休まれてください」
「……わかった、そうさせてもらうよ」
二人が私に気を利かせてくれたので、私はポケットにしまっていたアルからの手紙に目を通した。
【姉上へ】
お元気ですか、姉上。
僕もステルラも元気です。
後継としての勉強はもちろんですが、姉上に教えてもらった魔法も頑張って練習しています。
今日お手紙を出したのは、姉上が学園に戻る前に提案してくださった土地の開拓についてです。
きっと、姉上が僕のことを思って提案してくださったことなのではと思ってます。本当にそうかはわかりませんが、ありがとうございます。
今、あの土地の土を調べたり、近くの水脈などを調べたりと順調に進んでいます。
もし、ここで何か植物を植えられるのであれば、僕は姉上が好きなベリー系の果物を植えられたらと思ってます。まぁ、調べてみないとわからないですが。
それだけじゃなくて、他にどういうものであればどういったことができるのかと考えるのが毎日楽しいです。
また何か進展がありましたらご連絡します。
日々暑さが増しています。お身体にお気をつけください。
【アルヴィルスより】
決して長い手紙ではなかったが、アルがあの土地の開拓を頑張ってるようでよかった。
んー、確かにベリー系の果物を植えられたら私的には嬉しいけど、他の植物でもいいかな。
小麦だったら、お菓子やパンに使えるし、ぶどうならワインも作れたりする。
どんなものがあそこで育つのか、私もとても楽しみだ。
「悪い、待たせたな」
手紙を読み終え、脳内で弟が頑張ってる姿を想像しているタイミングで、ルヴィーとキリク、そして随分と久しぶりに顔を見るミセリアの姿があった。
「あれ、ミセリア」
「さっきそこで会った。今日から復帰だと」
「あ、えっと……お、おひさし、ぶ、ぶり……」
初めて会った時と同じきょどった感じ。でも、なんだかそれが嬉しくて思わず笑みが溢れてしまう。
「おかえり、ミセリア」
「……うん、ただいま」
「ミセリアも混ぜていいだろう。というか、混ぜさせろ。俺わかんないところあるんだよ」
「あ、うん。僕でよければ」
「アンジュ、わからないところあるかい?」
「あ、ではここを」
大所帯での勉強会。
これだけの人数がいれば、テストも大丈夫だろう。
テストが終わったら、身体強化の魔法でも覚えようかな。