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16話:神聖なる神獣の世界1

頭がぼんやりする。

視界が霞んで、まるであの時みたいなそんな感覚。

だけど、あの時と違ってどんどん暗闇に落ちて行くのではなく、徐々に世界が光に包まれていく。


「ぁ……れ?」


気がつけば、草の上に倒れていた。

それに、あたりから鳥の鳴き声や木の葉の揺れる音がした。

ゆっくりと体を起こせば、いつの間にか自分は森の中にいた。

確か、私は大きな腕に引きづり込まれて……


「アル!?」


私と一緒に引きづり込まれたアルのことを思い出し、すぐに辺りを見渡した。すると、すぐそばで随分気持ちよさそうに眠っていた。とりあえず、怪我はないようだった。


「無粋な人間の子だな。我に背を向けるとは」


不意に聞こえた声に私は振り返った。

先ほどアルを探そうと辺りをキョロキョロした時、周りは確かに木々で覆われており、まさに森の中だった。

だけど、私の背後に広がっていたのは池というには大きく、湖というには小さな水場があり、その中央のある陸地。そこには空から降り注ぐ光を体に浴び、美しく輝く大きな白いドラゴンの姿があった。

正真正銘、本物のホワイトドラゴン。

彼の側には先ほど庭で助けた子供のドラゴンもいた。兄弟がいたようで、その子以外にも数体の小さなドラゴンがいた。


「人の子よ。何か言い残すことはあるか?」

「え?」

「何を驚いておる。私の子を連れ去ったのだ、人の子とはいえ代償は支払ってもらう」


彼は、私が自分の子供を誘拐したと勘違いしている。私は必死に違うと否定した。ドラゴンが私の家に迷い込んで、助けていただけだと。だけど彼は人間の言葉だと信じなかった。

神獣は神獣と神以外を信じない。子供とはいえ、人間の言葉に耳を傾けるはずもない。それでも私は必死に弁明した。


「本当に、私は連れ去っていません……本当です……本当なんです」


土下座なんて、元の世界でもほとんどやった覚えがない。ましてや、こんな子供の姿でやるだなんて。必死に地面に額を擦り付けて何度も何度も伝える。


「気は済んだか?」


結局、彼は私の言葉を信じてくれなかった。

あぁ、私ここで死ぬのか。せっかくみんなの幸せのために頑張ろうと思ったのに……それに、今度こそ私も幸せになれると思ったのに……


「キュー!」


不意にその声が聞こえた。顔をあげると、私のそばにホワイトドラゴンの子供がいた。

キューキューと鳴き声をあげながら、私のドレスに擦り寄る。そこにはトマトのシミがべっとりとついてる。反応からして、この子は迷い込んだドラゴンなのだろう。もしかして、トマトを気にいったのかな?


「ごめんね、トマトは無いの」

「キュー、キュー」

「気にいってくれたの?ありがとう。あれね、この子が作ったんだよ」


そばで眠るアルに視線を向け、そのまま頭を優しく撫でてあげる。

そうだ。ここには私だけがいるわけじゃない。アルもいるんだ。せめてこの子だけでも助けたい。


「神獣様。私のことは好きにして構いません。でも、弟だけは助けてください。この子は私を助けようとして、巻き込まれただけなんです」


改めて私は頭を下げた。

そばにいるドラゴンも私のことをかばってくれているのか、必死に鳴き声をあげていた。大したことはしてあげてないのに、どうしてこの子がこんなにも懐いてくれているのかわからないけど、神獣の子供にここまでしてもらえるのは嬉しかった。


「……はぁ、よかろう。今回は我が子に免じて不問とする。感謝しろ、人の子よ」

「あ、ありがとうございます!」


さっきまでに威圧はなくなり、なんというか親らしいというか……とにかく、許してもらえてよかった。

「よかったね」と言っているのか、そばにいたドラゴンはまた私にすり寄ってきた。この子も将来、彼のように大きくなるんだろうな。


「あ、あの神獣様。ここからはどうやって出ればいいでしょうか?」

「しばらくは出れん。子供を助けるために無理やり空間を壊してしまったからな。修復が完了すれば、正式な方法で道を開いて送り返そう」

「そうですか……」


みんな心配してるだろうか……早く帰って安心させたいな。

目の前で子供二人が消えたんだ、屋敷の中は大慌てだろう。下手したら、ルヴィーやハーヴェ、シルビアの耳にも入っているかもしれない。


「ところで人の子よ」

「あ、はい。なんでしょうか」

「お前は、この世界の人間では無いな?」

「え?」

「いや、違うな。正確には、別の世界の記憶があるな」

「っ!わかるのですか!?」


すごい。神獣ってそういうのもわかるんだ!!って、こういうのって普通言っちゃダメなんじゃ無いかな?いやでも、指摘してきたのは彼の方だから、いいのか?


「我々は神によって生まれた獣。普通の獣とは違い、特別な力がある。主の魂には別の色が混ざっている。そういう者の特徴として、前世。魂の前の体の記憶が影響していることが多い」

「神獣様は、過去にも私のような人にお会いしたことがあるのですか?」

「我は、他の神獣とは違い、他の種族と交流はしない。お前と同一を見たのは、我が生み出され100年も経たない頃だ」


うわぁー、想像もできない。

でも、私が作ったこの世界に私と同じような人がいるってのも変な話だけど……こうなってくると、本の強制力は大丈夫そうだな。本の世界に入ったっていうよりは、それと同じ世界げんじつってところかな。


「空間の修復まで時間がある。主の前の世界の話を暇つぶしに聞かせてくれぬか」

「はい。あ、そういえば弟が全然起きないのですが……」

「この空間の影響だ。本来であれば、お前も眠っているはずだ」

「え、じゃあどうして……」

「さぁな。恐らく、前世の記憶が影響してるのかもしれん」


そんなことはどうでもいいというように、神獣様は私に話すようにと急かす。

私もまぁ世間話、時間つぶしとして、前世でのことを神獣様にお話しした。


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