157話:帰国
「お世話になりました」
数日後、私たちが桜華を出る日が来た。
せっかくだからと数着ほど高そうな着物を頂いた。
生地はもちろん、刺繍がとても細かく鮮やかだ。通常であればとんでもない額になるだろうそれを簡単に頂いてしまって本当に申し訳ない。
「こちらこそ、色々とご迷惑をおかけした」
「そんな。私たちが皆さんを巻き込んだようなものですので」
「いえ。本来であれば、我々が対処しなければいけなかったことであった」
再び頭を下げるが、私もルヴィーも顔を上げるようにお願いした。
私たちがいうのも何だけど、今後ともうちと桜華が永遠に近い交友関係を築けたらと願っている。
ただ、しばらく桜華も忙しくなるだろう。その理由は跡取りの問題だ。
唯一の血統である羽衣華様が亡くなってしまったことで、雨龍様に跡取りがいなくなった。
それにより、王家の血を引く親戚連中が次の王座を狙う形になるだろう。
そうなれば、この交友関係もなくなる可能性がある。そうならないためにも、もし何か協力できることがあれば、わが国は協力を惜しまない。
まぁ、私がいえたことじゃないけどね。
「ミセリア殿。何かあれば文を出す。学園生活を楽しんでいるところ申し訳ないが」
「大丈夫です。むしろ、色々おまかせしてしまってすみません」
「そんなことはありません。今このような結果になったのは、ミセリア様が世界を知ったからです。これから先、あなたは多くのものを目にするでしょう。そうすればきっと、今よりも考え方や感じ方が変わることでしょう」
「そうですね……学園での……トレーフルたちとの出会いは、僕にとってとてもいいものです」
初めて会った時の感じとは違い、今のミセリは、真っ直ぐ背筋を伸ばし、しっかりと胸を張れていた。
それに、顔を覆うほどの長い髪の毛はさっぱりと切り落とされ、隠れていた綺麗なルビーのような瞳がキラキラと光に照らされている。
今の彼の表情は何かを決意したような、とても立派な姿をしている。
「皆様、そろそろ出港の時刻です」
「そうだな。では雨龍様、我々はこれで」
「はい。またいつでも、我が国に足を運ばれてください。歓迎いたします」
雨竜様たちに見送られながら、私たちは桜華を出航した。
長いようで、短い数日。
何とも大変な日々だったが、無事にことが解決してよかった。