152話:白い少女2
そうだ。どこか見覚えがあると思った。
髪色や目の色は違えど、容姿は写真で見た、雨龍様の娘である羽衣華様そのものだ。
まさか、彼女がリネアの依代になっているのか?
「羽衣華……羽衣華!」
「いけません雨龍様!あれは羽衣華様ではありません!」
飛び出す彼を必死に止める。流石に大の大人を止めるほどの力が私にはなく、ずるずると引っ張られてしまう。
でも、彼を彼女に近づけてはいけない。容姿は羽衣華様でも中身が違う。
羽衣華様の人格があるのかもわからない状態で近づけば、雨龍様が死んでしまう。
「雨龍様、落ち着いて……」
一瞬、目の前に彼女が現れた。
表情豊かな羽衣華様とは打って変わって、冷たい無表情の彼女はゆっくりと手を伸ばして雨龍様に触れようとしていた。
触れられて死んだあの兵士のことを思い出し、すぐさま私は雨龍様を引っ張ってそれを避けた。
「トレーフル!雨龍様!」
「私は大丈夫!ルヴィーたちは先に上に登って!私たちもすぐに行くから!」
「だが!」
「大丈夫!無茶はしない!」
まだなにかいいたそうだったけど、ルヴィーはアンジュの手を引いて上に登る。ミセリアも不安げな表情を私に向けていたけど、私が強く頷けば、彼もそのまま上に向かった。
「雨龍様、大丈夫ですか」
「なぜ……なぜ娘があんな……」
「わかりません。しかし、現状彼女を止める方法がわかりません。辛いとは思いますが、殺すことも想定しておいてください」
雨龍様にとっては、それは最も最悪な結果だろう。しかし、それ以外に彼女を止める方法はないかも知れない。
どんな文献を読んでも、器になった人間が戻ることはない。止める方法は、殺すか封印するかだけだった。殺さないなら封印。封印が難しければ殺すしかない。
ただ、すでに結果は見えてしまっている。私は封印魔法を使えない。
封印魔法はとても難しく、魔力はもちろんだがかなり高度な技術が必要になってくる。
今の私には、それが使えない。だから結果として殺す以外に方法が今はない。
「また一人でどうにかしようと考えてるでしょ?」
「え?」
目の前。私たちを守るように、ハーヴェがいた。てっきりルヴィーと一緒に上に行ったと思っていたのに、どうして……。
「ここでレーフを一人にしたら、また無茶するだろう?」
「流石に……どうにかして逃げるつもりではいる」
「逃げられる自信は?」
「……」
「大丈夫。きっとどうにかなるはずだ」
どこからそんな自信が来るのだろうか。
でも、一人じゃないって思うととても安心できる。
正直、たとえここから逃げてもあれを野放しにすることはできない。あれは魔王よりもこの世に解き放ってはいけないものだ。
「何か作戦ある?」
「ない。とりあえずは動きを止めない……」
話す暇もないのか。また一瞬にしてハーヴェの前にリネアが姿を表す。そして、彼にゆっくりと手を伸ばそうとした。
「触らないで!」
氷魔法を使用して彼女の動きを止める。
止まっている間にハーヴェは距離を取り、死んでいる騎士の剣を握った。
近づけば触れられる可能性もある。でも、近づかないと攻撃できない。
たとえ魔法で拘束しても……。
リネアが拘束している魔法に触れた瞬間にボロボロに砕け散る。
チートすぎんか?
「どうすれば……」
《トレーフル、大丈夫か》
「アモル様!」
《よく聞け。それは、触れたものを殺すことができる》
「はい。それは確かにこの目で見たのでわかります」
《それだけではない。あれと目を合わせたり、声を聞くだけでも死んでしまう》
「はいー!?」
なんだよそれ、完全にチートじゃないか!どうしろっていうんだよマジで!
目を合わせないって、何度か目があった気がしたけど運よくずれてたったことか?じゃあもし目を合わせていたら死んで……
考えるだけでもゾッとする。それに、さっきのアモル様の言葉が本当なら視覚と聴覚を殺した状態で戦わないといけない。それは、ほぼ不可能に近い。
「ハーヴェ!あれは、目を合わせたり声を聞くだけでも死んじゃう。聴覚は魔法で遮断するから、目は合わせないように対応して!」
「あはは、無茶言うね。でも、わかった。援護は頼むよ」
「うん」
きっと、何か方法があるはずだ。
彼女を殺す方法が。それを見つけ出すまでどうにか食い止めないと……。