149話:フィデース5
「レーフ、起きろ」
「あ……」
魔力回復のために少し眠っていた私をルヴィーが起こしてくれた。
一応認識阻害の魔法をかけていたけど、それにしても爆睡しすぎてしまった。
「3人が来たぞ」
眼下、この部屋唯一の出入り口と思われる場所から、アンジュとハーヴェ、ミセリアが数名の護衛と共にやって来た。
緊張した様子のハーヴェとミセリア。不安げな表情で辺りをキョロキョロするアンジュ。
ここからでは会話内容までは聞こえないが、その場にいたフィデース民は笑顔で二人を出迎えていた。
その顔は優しげな笑みというにはあまりにも悍ましいものだ。
「やるか?」
「まだ護衛とアンジュたちの距離が近い。もう少し距離が離れてから」
一歩、また一歩と護衛とアンジュたちの距離が離れていく。
タイミングを逃さないために、じっとその瞬間を待った。
そして、十分に護衛と離れた瞬間、私は魔法を展開。全員を拘束する。
「なんだ!」
「ファイアバーン」
拘束魔法展開から一拍開け、ルヴィーが天井を突き破る火の魔法を使用する。
魔法は大きな火柱を作り、きっと桜華にも見えているだろう。
「なんだ、何が起きている!族の仕業か!?身の程知らずめが!?」
「口を慎め、フィデース王よ」
私とルヴィーはそのまま眼下の研究施設に降り、拘束されている彼を見下ろす。
私はそのままアンジュやハーヴェの方に駆け寄り、ルヴィーの背中を見つめる。
「貴様何者だ!この私を誰だと思っている」
「お前こそ、私が誰かわからないのか?あぁ、国に引きこもっているから他国の王子のことなど知らないか」
「なんだと……」
「名乗らせてもらおう。私は、サージェント王国第一王子、ルーヴィフィルド・サージェント」
「サージェントだと……中央国の王子がなぜここに」
「実は縁あってな。お前たちのくだらない計画に、私の身内が巻き込まれてな」
ルヴィーの視線が向けられて、呼ばれていると思って彼の隣に立つ。
忌々しそうに私を見上げる国王に、私は令嬢らしく挨拶をした。
「お初にお目にかかります。トレーフル・グリーンライトと申します。ミセリアとは友人関係で、今回の計画のことも聞き及んでおります」
「ミセリアの友人……っ!ミセリア貴様!裏切ったのか!」
国王は唯一この国の人間でありながら拘束されていない彼に視線を向ける。
怒りの視線と、激しい言葉。
だけどミセリアは、怯えることも、動揺することもなく、まっすぐな目で国王の言葉を肯定した。
「この計画がどれほど大事なものかわかっているのか!」
「えぇ。確かに僕はこれが聖女様や勇者様がこの地に降りられるための大事なものだと思っていました」
「そうだ。だったら!」
「しかし、この計画はあまりにも危険すぎる。聖女様や勇者様が負けてしまったらどうするのですか!」
「聖女と勇者が負ける?そんなことがあるはずがない!例え魔王が完成した後にお二人が現れたとしても、お二人が魔王を倒せば済む話だ!」
「本当にそうですか?どうして聖女と勇者が絶対だと確信されているのですか?」
デジャブを感じるやり取りだ。
私がミセリアに話していたのと似た会話だ。
聖女も勇者も確かに特別ではあるが、絶対の存在じゃない。
彼らも生身の人間であり、まだ成熟していない幼い子供だ。現れたからと言って、絶対にこの世界を救う保証なんてどこにもない。
周りが二人に勝手に期待し、勝手に絶対だと固定しているだけだ。
その認識がこの国の人間はズレている。
「僕は、気づいたんです。聖女様も勇者様も、確かに特別ではありますが、僕らと同じ人間で、僕と同じ幼い子供なんです。いえ、僕らよりも尊く脆い人間。世界を託すのでなく、むしろ世界から守る必要がある人間なんです」
んー、言いたいことはわかるけど、ちょっといいすぎかな。
世界から守らなくても彼らにも得意なことはあるだろうし。そんな触れたら壊れるとかそんなんじゃないしね。
「もし聖女様や勇者様が魔王を倒せず、その魔王が世界に放たれれば、生み出した我が国が責任を問われる。それを、理解されているのですか、父上」
「ミセリア!お前、父上になってことを」
「そうか、こいつらのせいなんだな!お前がこんなバカなことをしでかしたのは」
この国の最高権力者の言葉に同調するように、その場にいる拘束された面々が声を上げる。
騎士は剣を抜こうとしているし、魔法師は魔法を使おうとしているが、実行に移すことはできない。
「無駄ですよ。その拘束魔法は特別性です。私とミセリアの共同制作なんで」
イェーイとアワアワするミセリアとハイタッチをする。
それを聞いて尚更その場にいた全員が怒りに露わにする。
投げかける言葉は、あまりにも心にない言葉ばかりだ。
流石に私も殴って黙らせたくなる。いや、一発殴るぐらい許されるはずだ。
「父上、兄上、すみません。何を言われようと、僕の気持ちは変わりません」
「ミセリア……お前何をする気だ!」
「無駄だ!それを壊してもお前では魔王は殺せない。いや、お前が殺しては意味がない!」
「そうだ!遥様と拓也様が殺さなければ何の意味も」
「あ、そのことですが、二人とも偽名ですよ」
パチンと私が指を鳴らした瞬間、アンジュの髪色と目の色、ハーヴェの目の色が元に戻る。
さっきとは違う姿に周りは唖然とする。
「なんて罪深い行為だ……聖女様と勇者様を侮辱したのか!?」
「侮辱だなんて侵害だな。優秀な魔法師であれば、魔法で姿を変えてることには気づくはず。気づかないってことは、あなたが集めた魔法師は無能だということです」
ミセリアは足を止めることなく例の魔法陣に近づく。
最後に見た時は4体で殺し合っていたが、いつの間にか最後の一匹になってしまっていた。
「やめろミセリア!!
父の言葉に耳を傾けず、ミセリアは魔法陣に手をかざす。
その瞬間、魔法陣は砕け散り、同時に魔物がいた装置も砕け散った。