148話:フィデース4
そして、場所をミセリアが言っていた地下への入り口に近くに移動し、彼らが来るのを待った。
彼らもすぐに実行に移したいだろう。会話が終わり、アンジュたちが退室すれば、すぐにこっちに来るはずだ。
「レーフ」
魔法を使ってるといえ、何かあった時のために物陰には隠れていた。そんな私に声をかけて来たのは、なんか息の上がっているルヴィーだった。
なんだ、やっときたか。
「遅かったね」
「あぁ……浮遊魔法の加減間違えて色々大変なことになってな」
「ふーん……詳しく聞いたほうがいい」
「聞くな」
ということなので、事情については聞かなかった。
私はとりあえず、潜入してからのことを話した。
「なるほどな。じゃあそろそろ来るな」
「うん。私たちはこのまま先に侵入。魔族を生成している魔法陣についてはやっぱりミセリアの方が詳しいから、壊すのはなし」
「じゃあ俺らは、4人がここに来て、タイミングを見計らって実行か」
「合図については私が拘束魔法でその場の人間を拘束したタイミングでね」
さっき、4人と言ったけど、ヘルガが来るかはわからない。
ミセリアの腹違いの兄とはいえ、あくまでも使用人な上にこの国の生まれじゃない。よそ者を大事な場所に入れたくないということもある。
その時は、合図と共にこの国に攻めいった桜華の兵を誘導する手筈になっている。
「来たぞ」
視線の先。数名の男たちが固まってやって来た。
身なりのいい男が前に3人。後ろに剣を携えた男が二人。そのさらに後ろに、フードをかぶって杖を持つ男が3人いる。
前3人は恐らく王族。ミセリアの父親と兄たち。
護衛に騎士が2人と魔法師が3人か。
「いけるか?」
「まぁ地下に何人いるかにもよるかな。でも、私を誰だと思ってるの?」
「……そうだな。ミセリアは一緒じゃないみたいだ。後から来るか、またはそれを許されていないか」
「その時は私が壊すよ。まぁどうなるかわからないけど」
しばらくすれば、ゴゴゴと音が鳴り、地下への扉が地面から現れた。
あの仕組みだと、私たちが扉を出してしまうとバレてしまうな。
「探索魔法使うね」
地面に手をつき、私はあたり一体を調べる。地上はもちろん、地下の状況も私にかかれば丸裸だ。
アンジュやハーヴェは部屋に、数名の使用人と一緒にいる。扉の前や部屋の外、バルコニーの下に見張がいる。
敷地内の見張りが少ないのは、見張りを二人にあてがってるからだろう。
ヘルガとミセリアも部屋で一緒にいる。会話は聞こえないけど若干深刻な感じ。これはもしかしたら、本当に私が魔法陣を壊さないといけないかもしれない。
んで、地下の様子は。
「うっわ、えぐいなぁ……」
「どうした?」
「地下の様子を見たんだけど、さっき入った人たちも合わせれば、地下の人数は20ぐらい」
「まぁ数的には問題ないな。で、ただ人数でそんな発言したわけじゃないだろ」
「例の魔法陣。蠱毒壺を使ったやつね。数体の魔物が魔物の死骸の上で殺し合いしていた」
「まじか」
「結構な数の死体があったけど、状況がわからないからその中から魔王が生まれる可能性はある」
実際、蠱毒壺は中が見えない瓶の中で行われていて、最後の一匹になる瞬間を見ることはできない。
でもここでの壺の役割になってるものは完全なガラス張り。というか、中が見られるようになっているため、苦手な人間にとっては随分と気持ちの悪い光景だろう。
胸糞悪い。あんなもの、さっさと壊してしまわないと。
「それで、どうやって入る」
「事前に入り方についてはミセリアに聞いてたから対策はあるよ。ちょっと失礼」
「え?」
私は特に説明も了承も得ずに、真正面からルヴィーを抱きしめる。
ただ抱きしめるんじゃなくて、しっかりと体を密着させて。
「お、おい……」
「移動魔法」
魔法名を口にした瞬間、魔法が発動して、日の光が照りつく庭先から、薄暗い地下室に移動した。
移動が完了するとすぐさま体を離し、眼下の実験施設を見た。
「おぉー、無事に移動完了」
「おい」
「え、なんすか」
「説明しろ!」
「説明って……あの転移は簡素なもので、あれぐらい密着しないと一緒に移動できないんだよね。それに魔力の消費も激しいし」
「事前に言っておけよ、びっくりするだろ」
「何を今更。従兄妹だし、何よりお互いに婚約者もいるんだからやましいことはないでしょ」
不服そうな顔をしながら、必死に納得しようとするルヴィー。
まぁ確かに事前に言うべきではあったなそこは反省しよう。
「うーっわ、まじだ。気持ち悪いなあれ」
「ねー。とりあえず私たちはアンジュたちが来るまでは隠れることに専念する」
「んで、来たらタイミングを見て実行」
「うん」
というわけで、しばし待機時間になります。