142話:月華3
「ねぇレーフ。言いにくいかもしれないけど、聞いてもいい?」
「ん。なに?」
「レーフが一番好きなキャラクターって誰だったの?やっぱり、殿下?」
おふ。まさか、アンジュにも聞かれなかった質問をハーヴェにされるとは……。
まぁ確かに、少なくとも自分の理想キャラは作者として一人ぐらいいるよね。
誰が一番か……言いたくないなぁ……。
そう思っていても、答えないと彼は逃してくれないだろう。
私は小さなため息をこぼしたあと、視線をハーヴェに向け、その美しい頬を人差し指で何度もつっついた。
一種の照れ隠しだ。現に、今顔が熱くてたまらない。
「ハーヴェ」
「僕?」
「そう。ハーヴェは理想っていうか……私の好きを詰め込んだキャラクターなの」
とはいえ、これをもし他の誰か、特にルヴィーなんかに話せば、性格というかその愛情表現について指摘されるだろう。
まぁ、確かにわかる。でもね、どんなに歪んで重い愛情でも、無関心よりはずっといいんだよね。しかも、この顔面と物腰の柔らかさ。正直最高です。
「本当に?」
「疑ってるの?正直、メインの二人よりも、私はハーヴェとトレーフルの関係性が一番好きだったの」
「……自分で言ってる」
「物語と今じゃ違うよ」
「そうかな……?」
ぎゅっとハーヴェは私を抱きしめて、首に頬を擦り付ける。
甘えるような仕草。くっ、可愛いな……。
「そんなに変わらないと思うよ。僕はこんなにもレーフを愛していて、それに対して嬉しいと思いながらもツンツンしてるレーフ。違うと言えば、中身が作者だってことぐらいだよ」
「そんなことは……」
「僕はそう思うよ。正直、前世に対しては元彼以外のことはどうでもいいんだよ。どうでもいいけど、君が殿下とシルビア嬢を特別に思っていたことの理由がわかった。そして、君が無茶する理由も」
抱きしめる力が強くなり、ハーヴェの声が、先ほどまでの甘い声ではなく、どこか決意を含んでいるようにも感じた。
「安心して。君を死なせない。君がみんなの幸せを願うようにみんなも君の幸せを願っている。だから、僕にも協力させて。みんなが幸せになって、そして君も幸せになる未来を迎えることを」
「……うん。ありがとう、ハーヴェ」
話せて……いや、話してよかった。
正直、やっぱり怖かった。話して拒絶されることが。でも、彼は受け入れてくれて、そして私が望むこと……それ以上の結果になるように手助けしてくれると。
それは私にとって、これ以上にないほどに嬉しいことだった。
「あ、そうだ。レーフこれ」
「ん?」
渡されたのは紫の石。どこかで見たことがあると思ったら、トレラ様にもらった紫の石だ。
「使わないに越したことはないけど、レーフは無茶するからね。僕よりも君が持っていた方がいい」
「本人の前では汚いって言ってたのに」
「よくよく考えたら、相手は神獣様だからそんなことはないよ」
ハーヴェの言葉に思わず笑ってしまった。
まぁ確かに、私とハーヴェ、どっちが持っていた方がいいかと言われたら、満場一致で私になるだろう。
明後日は無くさないように持っておかないと。
ハーヴェの言う通り、これを使わないに越したことはない。
「そろそろ戻ろうか。少し冷えてきた」
「うん、そうだね」
「そういえば。混浴があるそうだけど、体も冷えたし、一緒に入る?」
「なっ!私たちまだ未婚なんだからダメに決まってるでしょ?」
「ふふっ、残念。流れでいけると思ったけど」
揶揄う彼に、私は頬を膨らませて怒る。
帰り道、機嫌は悪かったけど、それでも繋がれた手を離すことはなかった。