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141話:月華2

私にとっては過去話で、彼にとっては物語の中の出来事だろう。

こことは違う世界。

魔法がなく、生き物も一般的な家畜だけ。

科学が発展していて、遠く離れていても簡単に会いに行けるようなそんな世界。

ただ一緒なのは、人間の愚かさだけだ。

どの世界でも、人間という生き物は身勝手な生き物だ。結果として、私はそれで死んでしまった。

もう梓楓(あずさかえで)としての人格的感情は何もない。ただ記憶にあるだけで、そう思うと私は確かに梓楓だけど、すでにトレーフル・グリーンライトという人間に染まりきってるかもしれない。


「という感じかな。だからまぁ、今回の作戦はアンジュは大丈夫だとは思うよ。聖女ではないけど、聖女みたいなものだし」


私が男としてこの世界に生まれていれば、ハーヴェの代わりに勇者として潜り込むこともできただろう。まぁ男装してもよかったけど、流石に骨格とかが大きく違いすぎるしね。


「レーフは、その男を愛していたの?」

「え?」

「前世の……君を殺した男だよ」


なぜピンポイントで尋ねてくるかわからない。

愛していたのか。

まぁ最初は確かに愛していた。でも、明確な瞬間はなかったけど、もうずっと前から愛なんてものはなかっただろう。

だから、浮気の現場を見ても怒りなんてものはなかった。


「少なくとも、愛そうとはしていた。まぁ、そう思ってる時点で多分、愛してないってことなんだろうけどね」


彼にとって、私という存在はただの金蔓(かねずる)だったのだろう。

実際、浮気相手にもまるで自分が金持ちだと言わんばかりに振る舞っていたみたいだし。


「そっか……じゃあ僕は?」

「えっと……ハーヴェ?質問おかしくない?」

「ん?何もおかしくないと思うけど」

「いや、おかしいよ。私、前世の記憶があるんだよ?しかも、私が書いたお話の世界!ハーヴェにとっては創造主みたいなものだよ!なのに……」

「確かに驚きはしたけど。僕にとってはそんなことどうでもいい。僕が知りたいのは、今の君が僕を愛してるかということ」


そういえば、元彼の話をし始めた時、なんかすっごい怖い顔してたけど……え、前世の恋人に嫉妬?いやいやまさか……。

でも、相手はあのハーヴェだ……なくはないな。


「……バカなこと言わないで」


大体。あの男とハーヴェを比べるまでもない。

いや、比べることすら烏滸(おこ)がましいと思う。


「どう考えてもハーヴェの方がいいに決まってるでしょ!あんな男よりも、ハーヴェの方が……す、好きに決まってる」


流石に最後は言い淀んでしまったが、彼にとっては満足な答えだったようで、満面の笑みを浮かべて私のことを抱きしめてきた。

そう、比べるまでもない。

たとえ歪んでいても、たとえ重くても、こんなにも私のことを愛してくれている相手とあんなクズを比べるなんて、あり得ないことだ。


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