140話:月華1
雨龍様との謁見の後、部屋でのんびりゴロゴロしていれば、あっという間に夕食の時間。
用意していただいたこの国の服。つまり着物に着替えて夕食をいただいた。
煮物に焼き魚。お味噌汁に白米。和食のオンパレードで私もアンジュも大興奮。
なぜか東の国の出身なのに、ミセリアとヘルガの目も輝いていた。なんでも、自国ではこんなに豪華な食事は出たことがないと。ヘルガはともかく、ミセリアは王族なのに、こんな食事が食べれてないなんて、どうなってんだフィデース。
食事の後は入浴。お風呂はもちろん温泉。家や寮のお風呂も広くていいけど、やっぱり温泉はまた違う魅力がった気持ちが良かった。
そんな、まるで温泉旅行を楽しんでるような気分に浸りながら、はしたなく布団にゴロゴロしていると、部屋にハーヴェが訪ねてきた。
「良かったら、お城の庭園というものを見にいかないかい?」
「……うん、いいよ」
アンジュに先に眠るように言って、私はハーヴェと一緒にお城の庭園を見て回った。
灯籠でライトアップされた庭園は幻想的で、きっと昼間とは全く様子が違うのだろう。
そないつけの岩の椅子に腰を下ろしながら、私たちはじっと庭を見つめていた。
「ご飯おいしかったね」
「うん。興味深い味だった」
「ハーヴェは、食べたことないの?」
「ウチではあまり馴染みがなくてね。レーフは違うのかい?」
「お父様に頼んで、取り寄せてもらってたよ。好きな味なんだ」
好きというよりは馴染みの味と言った方が正しい。
でもきっと、何も知らないハーヴェからしたら意外だと思われるかもしれないな。
「いよいよ明後日だね」
「うん、そうだね」
明日は雨竜様も交えての作戦会議。結構日は明後日。
いよいよ目前に迫っていることに、緊張する。成功するかな。失敗して世界が滅んだらどうしよう。そんな不安が急に押し寄せてきてしまった。
「レーフ、大丈夫?」
「……うん。なんか緊張してきちゃって」
「そっか。大丈夫、きっとうまくいくよ」
「そう、だといいな」
うまくいくと思いたい。だけど、本当にうまくいくのかな。
今までのことはなんとかうまくいったけど、今回はそうもいかない。
死ぬ可能性もあるし、自分一人のことじゃない。協力してくれる人がいる。そんな人たちを、死なせるわけにはいかない。
「大丈夫だよ、レーフ」
優しく肩を抱き寄せ、ハーヴェが私の耳元で囁く。それは、甘い愛の言じゃなくて、優しさを含んだ励ましの言葉。
「僕たちがいる。不安に感じることがあれば、僕たちを頼って。君は一人じゃないから」
「……うん、ありがとうハーヴェ」
そうだ。なんでも私一人でやろうなんてことはもうやめた。
私がみんなの幸せを願ってるように、みんなは私の幸せを願ってくれている。
私を含め、みんなの幸せのために、私はみんなを頼ろう。
「ねぇハーヴェ。ちょっとだけ、私の話を聞いてくれる」
「うん、なんだい」
「大した話じゃない。そう、大した話じゃない」
そのために、君には知ってもらわないといけない。
私という人間がなんなのか。
「私の、前世の話だよ」