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134話:黒蛇と朱殷の吸血鬼1

日は傾き、外はすっかり夜になってしまった。

慣れない船上で、みんななかなか寝つけなかったため、魔法を使って強制的に眠らせた。

ただ、私自身は状態異常が効かないので魔法で眠ることができない。自力で眠るしかないが、まぁどう頑張っても無理だった。

みんなが寝てるところに起きてる自分がいてはいけないと思い、私は甲板で夜の海を見つめていた。

生前でも眺めることはなかった夜の海。

小説を書く時に何度も描写をしたことはあったけど、こうやって自分の目で見ると文面では表現できないほどに美しい光景だった。

当然だけど、甲板には私しかいない。他の乗客も寝ていて、昼間の騒がしさが嘘のようだった。

海も、まるで生き物なんていないというような静けさだった。

起きている生き物もいるだろうけど、激しい波が立つこともなく、穏やかな小さな波がたっているだけだった。


「嵐の前の静けさって感じ」


こういう時、フラグ回収と言わんばかりに何か起きることがあるんだよね。

大きな生き物が船を襲って崩れて無人島に遭難とか。まぁ現実でそんなことそうそうないけどね。

眠気はないけど、海風も少し肌寒く感じるし、そろそろ船内に戻ろうかな。

そう思って海に背を向けた時だった。


「あんた、眠れないのかい?」


不意に聞こえたその声と同時に、背筋がゾッとするような魔力の濃度と圧力を感じた。

反射的に私は相手がいるであろう場所から距離を取った。

一体なんだと思いながら私は顔を上げたけど、ふっと体の力が一気に抜けた。

月夜の海を背景に、たくさんの血を吸収したような赤黒い朱殷の髪に、宝石のアメシストを二つ埋め込んだような印象深い紫の瞳。

表情はどこか眠そうで無気力だけどあまりにも顔の造形美が美しくて一瞬人形のようにも見えてしまう。

そして何より、体に黒い蛇を巻きつけていた。

彼は甲板に降り立つと、じっと私のことを見つめる。表情は全く動かず、工芸品のような無気力な顔は確かに私のことを見ていたが、でも別の何かを見ているようだった。


「やぁ初めまして。お前がアモルの友達かい?」


表情に似つかわしい明るい声。と思ったけど、喋ったのは彼に巻きつく黒い蛇だった。

黒い蛇はゆっくりと体を伸ばし、私の目の前にやってきた。


「あ、えっと」

「なんだ、随分と驚いてるな。あぁそういえばあいさつしていなかったな。おいらは神獣の一体、アーテルスネークのトレランティアっていうんだ。よろしくな」


アーテルスネークって、「夜の監視者」って言われてるあの?

黒蛇だとは聞いていたけど、他の神獣に比べて小柄だし、なんていうか随分とお喋りだよな。


「えっと、トレーフル・グリーンライトといいます」

「トレーフル。いい名前だな。あ、おいらのことはトレラってよんでいいよ。みんなそう呼んでるし」


あれ、そういえばアーテルスネークはもう1000年以上変わらない契約者がいるって言われてたよね。確か、今確認されている一番長生きの吸血鬼……


「もしやそちらは……」

「ん?あぁおいらの友達の、ニルヴァルドだ。よろしくな」


ニルヴァルドって……やっぱりそうだ。

吸血鬼、ニルヴァルド・メンシス・オルロック。

吸血鬼の弱点を全て克服していて、魔力の高い人間を襲う、世間で危険視されている吸血鬼!

1000年以上生きていて、あの夜の監視者である神獣アーテルスネークとずっと契約している亜種。

どうしてそんな人が私の目の前に?絡みなんてないだろうに。


「えっと、何かようですか?」

「用ってほどじゃないよ。強いていうなら挨拶?」

「挨拶、ですか?」

「そうそう。あのアモルが人間の友達を作ったっていうからどんな子かと思ってね。って、おいニルヴァルド!」


トレラ様が話している途中、ずっと微動だにしなかった吸血鬼、ニルヴァルド・メンシス・オルロックが動き始め、ゆっくりと私に近づいてきた。

歩きながら手が私の方に伸びてきて、何かされると思って身構えたが、そのまま体が包まれた。


「いい匂い」

「へ?」

「おいおいニルヴァルド。流石にいきなりすぎるぞ。アモルにもいわれただろう」


まるで甘えるように、私を抱きしめながら首筋に顔を埋めるニルヴァルド・メンシス・オルロック。

え、何。なんで私いきなり抱きしめられてるの?


「すまないな、トレーフル。ニルヴァルドはあんたの魔力に惹かれたみたいだ」

「魔力?」

「そう。ニルヴァルドは高い魔力の血を好む。それ以外には見向きもしないんだがな。それに、吸血衝動の周期も近いから、なおさら」


つまり、私の血をこの吸血鬼が気に入って、なおかつ吸血鬼衝動が起きる前だから、我慢できずにってこと?


「えっと……血が飲みたいんですか?」

「……うん」

「悪いねトレーフル。もしよければこいつに血を分けて欲しいんだ」

「あぁ、えっと……」


まぁ血ぐらい減るもんじゃないし、死なない程度で良ければいいかな。

にしても、そういうコンテンツは前世で何度も見たことあるけど、まさか自分が吸血される日が来るなんてね。

そう思いながら、私は首筋を出すために服をはだけさせようとした。


「離れろ」


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