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133話:夜(?視点)

トレーフルたちが船に乗った頃、神獣たちの世界のアモルのテリトリーは暗い夜となっていた。

淡い月明かりが、アモルの生活拠点に優しく差し込む。

子供達はアモルに身を寄せ合うようにして眠り、彼もまた身を丸めて目を伏せ眠っていた。

しかしふと、テリトリーに誰かが入ってきたことに気づいて目を開ける。

じっと、暗い森の中を見つめながら、一度だけ瞬きをした。


「やぁ、アモル。こんばんは」


次に目を開いた瞬間、誰もいなかったはずのそこに一人の男の姿があった。

朱殷の髪に紫色の瞳。体に黒い蛇を巻いたそれは、じっとアモルのことを見つめる。


「珍しいな。汝らが我のテリトリーに来るとは」

「聞いたよ。友を作ったんだって。しかも人間の」


男の体に巻き付いていた黒蛇が、シュルルと音を立てながら親しげにアモルに声をかけた。


「同族……自身の子供にしか興味のないお前が誰かを友にするなんて、最初は信じられなかったよ。しかも、短命で愚かで、哀れな人間だなんて。前に子供が攫われたと勘違いして、人間を殺そうとしたらしいけど、もしかして同情の契約かい?」

「……今日はよく喋るな。トレラ」


黒蛇はまたしてもシュルシュルと音をたて、体を伸ばしてアモルに近づく。

そして、笑っているのだろう。またシュルシュルと音を出しながら目を細める。


「テリトリー内が夜だから気分がいいんだ。不快な思いをさせたなら謝罪するよ。でも、友を作ったことに驚いたのは本音だよ。いや、他の連中も含めてだけどね」


黒蛇は、そのまま体を縮め、また男の体に絡みついた。

黒蛇、アーテルスネークのトレランティアも神獣の一人だ。

他の個体よりは体のサイズは小さいが、夜の監視者と言われる存在だ。


《夜の行動は全てアーテルスネークが見ている》


人間の間ではそう言われており、意味は夜に悪いことをしても誰かが見ているかも知れないからやめておけ。ということだ。

他種族との交流はせず、基本的に同じ夜に生きる種族のみと交流をする。

だから、彼がこうやって他の神獣のテリトリーに来るのはたいへん珍しい。


「みんな人間と契約したり、加護あげたりして物好きだよね」

「お前は相変わらずそやつとだな」

「気が合うんだ。まぁ吸血衝動はどうにかしてほしいけどな」


まるで血を吸い込んだような朱殷の髪が月に照らされ、風に揺れる。

彼は多くの種族の者たちが危険視している、現在確認されている吸血鬼で最も長く生きていると言われている、ニルヴァルド・メンシス・オルロック。その本人である。

一箇所に留まることがなく、いろいろなところを転々と回っているため、至る所で目撃情報が飛び交っている。

吸血鬼の有名な弱点を全て克服しており、魔力量も高く、魔法の才能にも長けている。

彼自身、長生きできれば特に危害を加えることもなく、唯一の行動が吸血行為だけ。その吸血行為も主に魔力の高い生き物相手だけで、殺したりなどもしない。


「なんだアモル、その人間を気に入ってるのか」

「……そうだな。良き友だ」

「……ふーん。アモルがそんなこと言うなんて珍しいね。契約したってことは、その人間はここに眠らずいるってことだよね」

「あぁそうだな」

「その時点で普通の人間じゃないってことか。なるほどな」


シュルシュルと音を立てながら、トレラはあることを思いついて、アモルに尋ねる。


「なぁアモル。その人間と会話したらお前は怒るか?」

「……なぜだ」

「お前と契約したって言う人間に興味があるんだ。まぁ安心しなよ。手を出す気はないさ、そこは弁えてる。おいらは、な」


トレラは音をたてながら、今度はニルヴァルドの方を見る。

ここにきてからずっと、彼は無表情だった。いや、無表情というよりはどこか眠そうにも見える表情。

しかし、だからこそその変わらない表情に人間は恐怖し続ける。


「もうそろニルヴァルドの吸血衝動周期なんだ。魔力が高かったら少し分けてもらおうと思ってな」

「なるほど。それで、我がダメだと言えばやめるのか?」

「いんや。どちらにしろその人間には興味があるから挨拶ぐらいはするさ。まぁ安心しな、おいらは唯一吸血衝動だけは嫌いなんだ。ニルヴァルドが暴走した時はおいらが止める。もちろん、その人間が傷付いたらおいらが治療をする」


アモルはじっと二人のことを見つめる。

すると、そのまま体を丸めてまた目を伏せる。


「ん?アモル」

「何かあれば、我は汝らに容赦はせんぞ」

「それはいいってことだね」

「本人が嫌がればやめろ。まぁあれはお人よしだ、許可は出すだろう」

「へぇーそうなんだ。まぁとりあえず許可はもらったってことで」


わずかに、湖に雫が落ちる音がした。同時に、先ほどまでいた二人の姿は無くなっていた。


(また厄介な奴らに目をつけられてしまったな)


そう思いながら、アモルは子供達の体を少しだけ舐め、深い眠りについた。


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