132話:従兄妹であって従兄妹ではない
寝起きなのか、少しだけ髪がボサボサで、服も乱れてる。
だらしないけど、まぁ王族らしく見えないのは好都合かな。
「おはよう」
「おはよう。と言いたいが、揺れでうまく寝れないから余計に眠い」
「まぁ慣れてないとそうだよね」
近づいてきたルヴィーの頭に手を伸ばし、少しだけ寝癖を整えてあげた。
なんというか、俺様ルヴィー様も寝起きは少し幼くなる。
そういえば、こういう少し抜けてるところが可愛いとシルビアが大興奮してたような気がする。まぁわからんくもないけど。
「ヘルガ。お前はあいつらについてやってくれ。俺は少し海風にあたるから、レーフと一緒にいる」
「承知しました。では、失礼します」
一礼して、ヘルガはそのまま船内に戻って行って。
甲板は、ちらほら他の乗客がいる。やっぱり休みだから旅行で他国に行く人が多いみたいだ。
「それで」
「ん?」
「終わってから話すつもりって、なにがだ」
きっと、ルヴィーは何気なく尋ねてきたんだろう。
だけど、私にとってはまるで心臓を掴まれたようにひどく緊張してしまった。
聞かれてた?どこから?もしかして最初から?
「……安心しろ、もう会話が終わりがけのところしか聞いてない。それに、そんな顔するぐらい話したくないなら話さなくていい」
そんな顔ってどんな顔だろう。鏡がないから自分が今どんな顔をしているのかわからない。
でも、きっと今がタイミングだ。
きっと、ここで言わなかったらまたしばらく言えなくなる。事が済んでもきっと……だったら……。
「いや、いいよ。ずっと言わなきゃって思ってたし、何より今回の作戦を成功させるためには、ルヴィーとハーヴェにも知っててもらわないといけない」
心臓がどくどくする。少しだけ手が震える。
緊張と恐怖が、私の思考を否定する。
それでも、私はゆっくりと口を開いて、そして真っ直ぐにルヴィーの目を見た。
「私ね、前世の記憶があるの」
ゆっくりと、私は自身の話をした。
魔法が暴走したあの日に、自分の前世、前の魂の器が召喚された聖女や勇者と同じ世界にあったこと。
そこで死んだで、魂がこの世界に来て、お母様のお腹の中で新しい命として次の体に宿ったと。
そして、この世界がもともと私が前世で書いた小説の世界であること。それによって、今までの自分の行動も全て話した。
1から100全部話した。話してしまった。
不安だ。裏切られた気持ちになっただろうか。罵倒される?まぁ別にそれは仕方がない。そうなったら、シルビアには申し訳ないけど私はもう……
「そうか……お前が、いつも俺やシルビアのために行動していたのはそういうことだったんだな」
「え……?」
「ありがとう、レーフ」
ルヴィーは、ぎゅっと私の両手を握ってお礼を言ってきた。
どうして?私は何もお礼を言われるようなことはしてない。
確かにみんなには幸せになってほしいと思ってる。でも、本当は自分自身が死にたくないからだ。
本編通りになってしまったら、私は死んでしまう。私は、長生きしたい。今世こと幸せになりたい。
「どうして……お礼を言われることなんて何もしてないよ」
「そんなことはない。お前のおかげで、俺は今幸せだ。お前の行動一つ一つに何か意図したことがあったのかも知れない。でもそれのおかげで、俺もシルビアも、いろんな人間が幸せになっているんだ。だから、ありがとう」
「……身勝手だって思わないの?」
「思わないな。強いていうなら、他人の幸せを優先するんじゃなくて、自分の幸せを優先してくれ。今のお前も、お前が作った大事な存在だろ?」
そう。私も……この子も私の大事な子。私が転生してしまったことで、何よりも幸せの優先がシルビアやルヴィーになってしまい、彼女の体を蔑ろにしてしまった。
わかってる。私がみんなに幸せになってほしいと思ってるのと同時に、みんなも私に幸せになってほしいと思ってるって。
「そう、だね。確かに。でも……」
「おい、でもとか否定するな。いいか、このまま他人のために命をかけてみろ。お前いつかハーヴェに監禁されるぞ」
「え?」
「長年一緒にいるからこそ、わかるが、あれはもういつお前を監禁して外に出れないようにしてもおかしくない精神状況だ」
あぁ、やっぱりルヴィーもそう思う?まぁ本人も冗談なのか本気なのか、そういうこと言ってたし否定はしない。
それこそ、世に出されている物語では、トレーフルの死後、ルヴィーとシルビア殺害しようとしていたしな。
「下手したら、王族であろうと殺しかねない」
「否定はしないかな」
「……まぁ細かいことはまだ聞きたいことが山ほどあるがざっくりした内容は理解した」
「どう?従妹の中身が、実はとんでもなく年上で」
「みくびるな。それぐらいで俺の態度が変わると思うか?大体、前世の記憶がない年数より、ある年数の方が長いだろ。なら、後者がトレーフル・グリーンライトという存在だ」
そう言われて、私は思わず笑ってしまった。
全く、いうのを怖がっていた自分が馬鹿だった。
いや、でもいい結果だからそう思えたのかも知れない。
それに、ルヴィーがこうして肯定してくれたのは、今までの私の行動の結果なのかも知れない。
「ハーヴェには言ったのか?」
「まだ。ちゃんというつもりでいるから心配しないで。まぁ、前世の話をする時、元恋人がいてその人に殺されたなんて言って、ハーヴェがどうなるか……想像したくないけどね」
「前世とはいえ、記憶がある以上何かしらの嫌悪感はあるだろうな」
「あぁ、怖いことにならなければいいんだけどね」
その後、まだもう少し甲板で二人で話をした。
内容は、やっぱり私の前世の話だ。ある意味、私にとっては過去のことなので、ほぼ世間話のように話すけど、やっぱりこっちとあっちじゃ色々と根本から違うせいで、ルヴィーはまるで無邪気な子供のように、私の話を楽しそうに聞いてくれた。