131話:出発当日
ついにやってきた旅立ちの日。いや、出発の日。
しっかりと準備を済ませ、今は桜華行きの船に荷物を積み込んでいる。
まぁ私は積み込む必要のある荷物は全部魔法で収納してるから、みんなの手伝いをしているのだが。
ただ、若干私はやつれてしまっている。
「ずいぶん怒られたみたいだな」
「いやー、まぁ……自業自得なんだけどね」
今日はレインボーウィーク二日目。初日である昨日は、一度実家の方に帰っていた。
しかし、まぁ当たり前だけど今回のことは両親の耳にも入っており、帰るなり説教をされた。
基本的にお父様が私に説教をし、隣のお母様は笑顔の圧というか、笑っているけど怒ってるみたいな感じだった。
なんだか一生分怒られた気がする。
「そういえば、結局船酔いの魔法はできたのか?」
「まぁできたにはできたけど、効果抜群ってほどではないよ。結構薄め」
「それ以前にこの短時間で完成させたことが驚きだわ」
「ミセリアとの共同だから当然だよ」
出向まで残り数分。前世でもこんな大きな船で出かけたことなんてなかったから少し楽しみだった。けど、これからのことを考えると、あまりはしゃぎすぎるのもよくないと思った。
それからしばらくして、出航の合図がなり、船が動き出した。
港では、見送りに来ていたそれぞれの使用人たちが「気をつけてー!」と大きく手を振っている。私たちはそれを返すように同じように大きく手を振った。
本当なら使用人たちも連れて行きたかったけど、今回のことに巻き込みたくなかったため、私たちだけの旅となる。
「トレーフル様」
一人、甲板に出て海を眺めていた私に、ミセリアの従者であり異父兄妹であるヘルガが声をかけてきた。
「あれ、ヘルガ。一人?」
「はい。アンジュ様とハーヴェンク様は、我々が持ち出していた聖女と勇者についての書物を読まれております。ミセリアもそれにつきあっており、ルーヴィフィルド殿下は少し休まれるそうです」
「そう。それで、一人の私の護衛ってところかな」
「そんなところです」
アンジュは前世の知識があるから、聖女としてなんとか誤魔化すことはできる。問題はハーヴェの方で、当然だけど前世の記憶があるわけじゃないし、あったとしてもそれが私たちと同じ時代のものかもわからない。そのため、聖女や勇者の世界についての知識を頭に入れておく必要がある。
これから行く桜華にも聖女や勇者についての文献があるかも知れないので、もしあれば彼らのためにも閲覧許可をもらわないといけない。
「トレーフル様」
「ん?」
「ハーヴェンク様やルーヴィフィルド殿下に前世のことは言われないのですか?」
「ん?そうだね……言ったほうがいいんだけど……勇気が出なくてね」
「それは、今まで築き上げてきたものが壊れるかも知れないから、ということですか?」
「……今までだってチャンスはあったよ。でも、これを口にして本当にいいのかなって感じてしまうんだよ」
「お二人は、そんなことではトレーフル様を嫌いにならないかと。いや、そうならないように貴女は思い出してから努力されたのでは?」
そうだね。そうならないようにした。
みんなが幸せになるためには、どうしても原作通りに進んじゃいけないから、関係を築き上げた。だからこそ、自分のことを話してしまったら、死なないために利用したのかと責められるんじゃないかと思ってしまう。それ以前に、それを口にした瞬間に何か、私がわからない力が働いてしまうのではないかと。それが働いた瞬間、シナリオは本編通りに戻って、結果的に死んでしまうんじゃないかって。
「大丈夫です。お二人はトレーフル様のことが大好きですから。数ヶ月しかあなた方を見ていない私がいうのですから、間違いありません」
「……そう、ね……本当は終わってから話すつもりだったけど、魔王作成を止めるためには必要なことよね」
とはいえ、どのタイミングでいようかな。
今すぐ?いや、流石にそんな勇気はまだないな。様子を見てちゃんと話そう。
「お前たちここにいたのか」
その時、不意に声をかけられて振り返ると、大きなあくびをするルヴィーの姿があった。