125話:留学の理由2
東の小国、フィデース国は王族、高位貴族の間では有名なほどに聖女や勇者に対しての信仰が強い国だった。
そのせいなのか、自国も他国も関係なく、黒髪黒目の人間を特別視しており、保護という形で王族が管理する施設に住まわせていた。
しかし、それはあくまで表向きのもので、信仰心の強い彼らは再びこの地に聖女と勇者を召喚するために、保護した人たちを生贄にして召喚の儀式を何度も行っていた。
それは長い間行われ続けていたが、一向に聖女や勇者が召喚されることはなかった。
どうすれば再びこの地に聖女と勇者が現れるか。考えに考えた王はある一つの答えに辿り着いた。
聖女も勇者も、この世界に危機が訪れた時にその姿を表すと言われている。つまり、再び世界の危機が訪れればいいのだと。
すぐに魔王復活を。と行動したが、すでに魔王は跡形もなく滅ぼされており、復活などできるわけがなかった。
王は再び考えた。そして、また答えに辿り着いた。
「いないのであれば作ればいいのだ」
そして、聖女と勇者を召喚するために、魔王を作る計画がフィデース国で行われているそうだ。
もちろん、魔王を作ることができても、肝心の聖女や勇者がいなければ、国や世界が滅んでしまう。あくまで彼らが望んでいるのは、聖女と勇者がこの地に現れること。魔王はそのきっかけに過ぎないと。
ミセリアは、聖女と勇者召喚の担当らしく、最初はたくさんの書物を読み漁って、聖女や勇者が召喚されるための魔法を考えたがうまくいかなかった。
そんな時に、失敗作だと思っていた聖女を探す魔道具に反応があり、すでにこの世界に聖女が降臨していることを知り、改良を重ね、この国に聖女がいることは分かったそうだ。
だけど、個人までは特定できなかったため、後は現地で調べる必要があったそうだ、
「それで、私が聖女、だと?」
「うん!間違いなくトレーフルは俺が探していた聖女だよ」
また、彼の目が信仰の眼をする。
気持ちがざわつく。思っている以上に、私の中であの出来事はトラウマになっているみたいだ。ミセリアからすぐに顔を逸らしてしまった。
大体、私が聖女?そんなはずがない。アンジュなら分からなくもない。あの子はこの物語のヒロインなのだから。
「個人は特定できないんでしょ?私以外に反応した子とかいないの?」
「ホーリーナイトさんも一応は反応したよ」
「アンジュも?なら、アンジュだって可能性はあるでしょ?」
「でも、魔道具にたまたまハンカチに付着していたトレーフルの髪の毛が落ちた時、強い反応がして……!」
はっきり言って私は聖女じゃない。根拠とかはないけど。
さっきも言ったみたいにアンジュならわかる。でも、その魔道具が私に強く反応したのがおかしい。いや、もしかしてアンジュにも同じ反応が起こるかもしれない。
「ただ不思議なのは、聖女は黒髪黒目の女の子なのに、なぜかトレーフルとホーリーナイトさんだけに反応した。見た目で該当する子は何人かいたのに」
聖女と同じ髪色と目の子は反応しなくて、私とアンジュだけ反応した。
私とアンジュ、聖女の共通点って……
「あぁなるほど。そういうことか……」
「トレーフル」
「ミセリア。申し訳ないけど、私は聖女じゃない。もちろん、アンジュもね」
「そんなはずない!確かに魔道具は反応した!聖女だって!」
「えぇ。魔道具は間違ってない。間違ってるけど、間違ってないのよ」
私の考えが正しければ、ミセリアが作ったその魔道具は聖女に反応したのではなく、聖女と同じものに反応したということになる。
まさか、ハーヴェやルヴィー、シルビアに話す前に、ミセリアに話すことになるとは思っていなかった。
申し訳ないと思いながら、私はアニーに魔法をかけて、目を覚さないようにした。
「ミセリア。それと、ヘルガさん。今から話すことは他言無用でお願いいたします」
「トレーフル?」
「おそらく、ミセリアの魔道具が私とアンジュに反応したのは、聖女と魂が似ていたからだと思う」
「魂が、似ていた?」
そう、私とアンジュ、異世界から召喚された聖女の共通点は最初から答えが出ていた。
ミセリアが私を聖女だと勘違いした理由は簡単なこと。
「私とアンジュには前世の記憶があるの。その前世は、フィデース国民が信仰する聖女や勇者が元いた世界。魔道具が反応したのは、おそらく私とアンジュの魂だと思うの」