123話:招待状
いつもならすぐに出迎えて準備していた紅茶を出してくれるのに、アニーの姿がどこにもない。
「アニー、いないの?」
出かけたのかな。でも、何も言わずにアニーが出かけるはずもない。
誰かの部屋に行ってるのかな?
一応、自分の部屋も、アニーの部屋も、浴室もトイレも、全部見たけどアニーの姿はなかった。
夕食前には戻ってくるだろうと思って待ったけど、やっぱり戻ってこなかった。
そろそろ寮の夕飯の時間。アニーが戻ってくるかも分からないし、仕方ないから食後の紅茶は自分で用意しようかな。
そう思って、部屋にそないつけられたキッチンに足を運ぶと、そこには1セットのカップと一通の手紙が置かれていた。アニーが置いたものだろうかと思って、私は中を開いた。
――― 今夜0時、誰にも気づかれず、お一人で学園西側の物置小屋に来てください。貴女の大事な使用人が待っています。
カップの中には薬草が入っていた。
菫のような、青よりの紫色の花。バイエルン先生の授業で実物を見たことがある。
― アコニートゥム
前世の知識の中に同じ名前の植物がある。
ラテン語でトリカブトという意味の植物で、有毒な植物。なるほど、脅しているわけか。ふざけたことを。
私はすぐにそれと手紙を燃やした。
すると、扉がノックされて、扉の向こうからシルビアとアンジュの声がした。一緒に晩ご飯を食べに行こうと誘いに来てくれたみたいだった。
すぐに返事を返し、私は扉を開いて夕食へと向かった。
深夜0時。生徒が寝静まり、魔法を使って見回りをしている警備員にバレないように学園内に入り、私は目的の倉庫に足を運んだ。
ノックするか迷ったけど、誘拐犯にそんな礼儀はいらないと思い、私は思いっきり扉を蹴破った。あぁ大丈夫。防音魔法かけてるからどんなに騒いでも誰も気づいたりしないよ。
出入り口の向かい側。木製の椅子に座っているアニーの姿があった。
「アニー!!」
慌てて駆け寄り、安否確認をする。
大丈夫、息はある。何か毒を盛られたという感じもない。多分眠ってるだけだ。
特に目立つ外傷もない。痛めつけられたりもしてないみたいだ。
「派手に壊しましたね。さすがトレーフル様ですね」
「バレないでしょうか」
「大丈夫だよ。トレーフル様が防音魔法かけてるから人は来ない」
二人分の話し声。一人はやや低めの青年の声、もう一人は普段とはずいぶん雰囲気が違うけど聞き覚えのある声だった。
「どういうことか説明してくれない」
振り返った先。私が入ってきた出入り口を塞ぐように立っている二人の男性。その一人の、普段髪で隠れて見えない、赤い瞳が怪しく光、私を見つめていた。
「ミセリア」