122話:おかえりのない部屋
あれから数日、不思議とあのお茶会のことは噂になっていなかった。
彼女のことだから騒ぎ立てたりして、いろんな令嬢や令息が乗り込んでくると思ったけどそんなこともなかった。
それに取り巻きの子たちも、何度か顔を合わせたけど、みんな目が合うなり逃げるように私から離れていった。
ナターシャ先輩が関わるなと言ったのか、それともあのお茶会をきっかけに彼女たちがナターシャ先輩から離れたのかはわからないけど、まぁ大事にならなくてよかった。
「さぁ、そういう話は聞かないな」
移動教室中、今日も今日とてルヴィーとシルビアと一緒に次の授業の教室に向かっていた。その間、私は先日街で聞いた噂のことをルヴィーに尋ねた。
やっぱり彼も知らないようで、でもそれだけの事であれば、気をつけるようにと便りの一つあってもいいだろうに。
「陛下の耳に入ってないのかな?」
「どうだろうな。とりあえず、来週のレインウィークに帰った時にでも聞いてみる」
「私もお父様に聞こうかな。何か知ってるかもだし」
「お二人は、レインウィークは実家に帰られるのですね」
「うん。シルビアは違うの?」
レインウィークは、いわばGWのようなもの。
この長期休みが生まれたきっかけは、その昔、毎年決まった期間にとんでもない嵐が国に訪れていた。なので、その嵐が訪れる期間は誰も外に出てはいけない、当然店も開いてはいけないという事で、国が決めた長期間のお休みだ。
今はその嵐が来ることもなくなったが、休みがなくなることに批判の声もあったため、今でもこの休みが残っている。
「私は学園から直接、北の別荘地に行くんです」
「そっかぁ。ルヴィーは一緒に行かないの?」
「家族水入らずに入るのは申し訳ないだろ。それに、帰ったら色々調べたいこともあるしな」
「王族は大変だね。まぁ、頑張れよ」
王継承権のない私には関係ないことだし、他人事のようにルヴィーの肩を叩いて応援する。
それが気に障ったのか、思いっきり鼻をつままれた。
「休みの間に問題起こすなよ」
「失礼な。人をトラブル製造マシーンのように」
「似たようなものだろ。目を離したらすぐに問題を起こす。昨日のお茶会の出来事を俺が知らないとでも?」
チッ、知っていたか。大事になってないから、ルヴィーの耳に入ってないと思ったが、やっぱり知ってたか。
というか、私が思ってるよりも噂になってるみたいで、シルビアも知っていたそうだ。お二人さん、さっきまで何も知らない風だったじゃん!なんで急にそんなことするの!ひどい!
「あれは仕方ないでしょ。断って問題になるより、受け入れて問題になるほうが大事にはならないと思って」
「毒を盛られたのにか?」
「なんで知ってるの。あのお茶会に私の味方なんていなかったのに」
「まぁ……我が身可愛さってものじゃないですか?」
つまり、あの場にいて、もし自分にも大きな処分が下されたらと思い、仲間を売ったってこと?まぁあの場のメンツ見てる感じ分からなくもないけど、流石にあいては侯爵家の令嬢よ?裏切るかな?
「男より、女の方が仲間内での裏切りはよくあるみたいだからな」
「うわぁ、女って怖い」
「トレーフル様。私たちも女性ですよ」
「私はシルビアを裏切ることはないから、例外よ」
「それは、もちろん私もトレーフル様を裏切りません」
うん。知ってる。というか、シルビアに裏切られたら思いっきり泣いた後ルヴィーにやつたりするから大丈夫。
だから、安心してくれ。精神的に傷つくのは私で、物理的に傷つくのはルヴィーだから。
それから、1日の授業はあっという間に終わった。
今日の1番の印象は、飛行魔法の訓練中、生徒の一人の乗っていた箒が暴走してみんなを巻き込んでたことかな。なんとか魂みたいな感じて一つのでっかい集合体みたいになってた。申し訳ないけど、あれは面白いと思ってしまった。
「ただいまぁ」
今日も1日疲れた。
早くアニーが入れてくれたお茶が飲みたいよ。今日はどれを入れてくれたのかなぁ。気分的には甘い紅茶がいいな。
「ん?アニー?」
だけどそこには、紅茶の香りも、出迎えてくれるはずのアニーの姿がなかった。