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120話:紅茶の中の嫉妬

さっきまでガヤガヤと騒がしかったお茶会はその一言で一瞬で静まり返ってしまった。

まさかというかやっぱりというか、取り巻きたちはナターシャ様の事情をしっていたのだろう。でもそれなら、あんなに煽るというか、むしろ先生に変な噂がたつのはナターシャ様は望んでないはず。

それに、たとえナターシャ様の指示だったとして、彼女がバイエルン先生に噂のことを話しても否定されて、噂を信じた彼女は下手したら嫌われる。

単純に私を貶めたかっただけ?好きな人と仲良くしている私が許せないから、ここで貶めようとした?

まぁそれが事実かわからないし口にしないでおこう。


「な……なぜそのようなことを思われるのですか」

「いえ、なんとなくです。勘違いであれば申し訳ありません。私には、ナターシャ様が先生から私を引き離そうと必死のように見えたので」


カップを持つ手が震えている。周りの取り巻きたちはどうしようとお互いに顔を見合わせるだけ。全く、まさかこうなるとは思わなかったという態度。上位貴族の後ろで自分が強くなったように振る舞うその態度、とてつもなく無様。

大人数じゃ何もできない、可哀想な子達。


「まぁ別に、教師と生徒とはいえ恋愛するのは別にいいかと。本当にお互い想い合っていれば」

「わ、私は、そのような……」

「ただ、流石に既婚者相手はまずいと思うので、諦めることをお勧めします」

「は?」


ガチャン!と、ナターシャ様が手にしていたカップが地面に落ちて砕け散ってしまった。あー、高そうなカップだったのにもったいない。たとえ裕福でも物は大事にしないと。


「ナターシャ様、大丈夫ですか?」

「どう、いう……ことですか」

「使用人さん、彼女が怪我しないようにすぐにカップを片付けて」

「トレーフル・グリーンライト!」


勢いよくテーブルを叩いて立ち上がるナターシャ様。

彼女の今の表情に余裕などない。感情が露わになった、人間味のある姿だ。

嫉妬で顔は歪み、怒りと焦りと不安で感情がうまくコントロールできていない。


「なんでしょう」

「答えなさい!!バイエルン先生が既婚者というのはどういうことですか!」

「どうもこうも、そのままですよ。先生はすでに結婚されています。この学校に赴任する前から」


まぁ彼女が知らないのも無理はない。私だって、先生に直接聞くまでは知らなかった。

それに、先生も大々的に式はやってないから、知られてないのも仕方ないと思っていたといっていたけど。


「もしかしてと思いますが、そんなにも先生のことをお慕いされているのに、調べられていないのですか?」


公爵家になれない侯爵家と言われてはいるものの、相手は同じ侯爵家とはいえ、地方の貴族。調べようと思えばいくらでも調べられたはずだ。


「そんな……先生が、結婚……」

「ナ、ナターシャ様……」

「大丈夫ですか?」

「……念のために申し上げますが、奥様を殺害して自分がその座にとかも考えないほうがいいです。結婚をご存知ないのであれば、先生に成人済みのご子息がいる事もご存知ないのでしょう?」


私が畳み掛けるようにそう言葉を口にすれば、深く彼女の恋心を傷つけたのだろう。悲鳴をあげ、顔を覆いながら泣き始めた。

早かれ遅かれ、この事実は彼女の耳に届いていただろう。申し訳ないという気持ちはあっても、後悔はない。


「出鱈目ですわ……そうです、出鱈目ですわ……そうに決まってます……」

「もうよろしいでしょうか。ナターシャ様が私をどうしたかったが存じ上げませんが、この状況を見るに、私は歓迎されて招待されたわけではないのでしょう」

「トレーフル・グリーンライトぉおおおおおおお!」


感情任せの魔法展開。呪文を唱えて火属性の魔法を私に向かって撃ってきた。他の令嬢たちは悲鳴をあげてその場に倒れ込む。全く、こんな植物が多いところで火の魔法を使うなんて、どうなってもいいと思ってるのかしら。

当然、そんな魔法を防げない私じゃない。

無詠唱でその魔法を氷魔法で何事もなかったように消してあげた。


「ナターシャ様。私があなたの恋心を傷つけたことは謝罪します。なのでこれで許してください」


私はカップからスプーンを取り出し、一気に中身を飲み干した。

空のカップをソーサラーに戻し、口を拭う。そして、錆びた銀のスプーンを彼女に見せた。


「どこで手に入れられたか存じ上げませんが、取り扱いと飲ませる相手には気をつけてください。申し訳ないですが、私は毒が効かない体質なので、毒殺しようだなんて二度と考えないでください」


立ち上がり、わたしはそのまま挨拶もせずにお茶会の会場から立ち去った。

それにしても、なんの毒だったんだろう。やっぱり、味の違いがわからないのは不便で仕方ないな。


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