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119話:人の噂はいいお茶請け

それはあまりにも突然すぎるお誘いだった。


「初めまして、トレーフル・グリーンライト様」


見知らぬ女子生徒とは、たくさんの取り巻きを引き連れて、にこやかに挨拶をしてきた。

取り巻きも含め、完全な初対面。誰だろう……一度顔を合わせたことがあったかな。


「私、三年魔法科のナターシャ・メフィストと申します」


メフィストといえば、侯爵家か。確か、「公爵になれなかった、侯爵家」って言われてる家だったよね。

武術も領主としても優秀ではあるが、野心が強く、忠誠心があまりないことから公爵になれない家だと、前に教えてもらったな。

メフィスト家の一人娘はとても優秀で美しく、社交界の花と呼ばれているとか。

そんな人が、社交の場に全く出ない私に何の用だろう。


「初めまして。メフィスト先輩」

「ナターシャで構いません。学園内では貴族の礼儀はありませんし、年下とはいえあなたの方が階級は上ですし」


今、「学園内では貴族の礼儀はありません」っていったのに、私の方が階級が上という矛盾発言。私を見下してんのかそうじゃないのかよくわからんな。


「それで、なんの御用でしょうか。ナターシャ先輩」

「実はこれからお茶会をするのですが、是非ともトレーフル様にも参加して欲しいのです」

「私、ですか?」


なんで関わり皆無の私を誘うんだろう。

下心?私とも仲良くなって、卒業後の家門のパイプを強くするため?それとも、私をきっかけに家門潰し?


「なぜ、私をお誘いになるのですか?ナターシャ様のような方であれば、他に誘って欲しい令嬢もいるでしょうし」

「私は、あなたと仲良くなりたいんです。トレーフル様」


にこやかな笑顔。貴族がよく浮かべる作り笑いの笑顔。

まぁ何を企んでるか知らないけど、下手にここで断って大ごとになるのも面倒だし、相手は社交界の花と呼ばれるほどに、社交の場には多く足を運び、たくさんの貴族と関係を持っているような人間。そんな人物が私に対してどんな行動をするかとても楽しみね。


「そういっていただけるなんて光栄です。ナターシャ先輩からのお誘い、お受けいたします」

「まぁ、嬉しいわ」


無邪気に私に駆け寄り、私の手を握るナターシャ先輩。後ろの取り巻きたちはくすくすと笑っていて、明らかに何かする気満々ではないか。せめてことが済むまでしっかり演技しなさいよ。


「もう準備はできているの。一緒に行きましょう」

「はい」


私は先輩の後をついていき、お茶会が開かれる場所へと足を運んだ。

庭園に用意された長いテーブル。

サイドを取り巻きたちが座り、私とナターシャ様が向かい合うように座った。

テーブルにはたくさんのお菓子と紅茶。

使用人は数名。全員、ナターシャ先輩の指示に従ってるけど、彼女の使用人かな。


「さぁ、今日は素敵な方がいらっしゃっています。楽しいお茶会にしましょう」


主催であるナターシャがそういえば、一斉にみんなが喋り出す。

あそこのお菓子が美味しい、あそこのドレスが、宝石が素敵などなど、令嬢たちが良くするような会話。そして、おしゃれやお菓子以外に令嬢が好きな話は、本当か嘘かわからない、噂話。


「そういえば、トレーフル様はバイエルン先生の研究室に通っているという噂をお聞きしたのですが」


お茶会に参加している一人が、途端にそう口を開いた。

それに同調するように。聞いた、見た、などの話をし始め、そこから彼女たちがどんどんいろいろな想像をし始める。

普段一緒にいるはずのシルビアやルヴィーの姿もなく一人で。しかも、相手は教師とはいえ男性。密室で二人っきりで何をしていたのかと。

くすくすと笑い出す令嬢たち。なるほど、その話をするために私をお茶会に誘ったのか。

私は出された紅茶にスプーンを差し込み、クルクルとかき混ぜ、あまり親身に話を聞こうとしなかった。


「それで、どうなのですかトレーフル様」

「どう、とはなんでしょうか?」

「またまた。今の話が事実かどうかです」


また彼女たちはくすくすと笑い出す。事実だろうと事実でなかろうと、どうせ面白がるくせに。


「全くの出鱈目です。私は先生に毒草の授業を受けていました」

「まぁ、口ではなんとでもいえますよね」


ほらやっぱり。本人が否定しても、自分たちの話を正しいものにしたいんじゃない。全くくだらないったらないな。

大体そっちが本当かどうか聞いてきたんでしょ!


「トレーフル様はご存知ですか?」

「なにをでしょうか?」

「バイエルン先生は、マンツーマンで生徒に授業をするような方ではありません。なので、私はトレーフル様以外にも一緒に授業を受けていた方がいると思っていますの」

「……その話は聞いています。どんな生徒であれ、特別な理由がない限りは一人であろうと複数人だろうと特別授業はしないと」


ナターシャ先輩の言い方だと、複数人なら先生は授業を受けてくれるといっているけど、実際先生は誰であろうと特別授業をしない。そんなことをする時間があったら、実験に時間を使いたいからだ。

私の場合は、体質のこともあったし、先生も普段使用を制限されている毒草も使用できるということで乗り気だっただけ。つまり、利害の一致というやつだ。


「……なのに、トレーフル様には授業をされたというのは、どういうことでしょうか?」

「……なぜ、皆さんはそれを知りたいのですか?」

「なぜ、なぜですって……」


何かを小言で呟いた後、ナターシャ先輩は軽く咳払いをして、また作り笑いをした。


「私は、あなたのためを思っていっているのですよ」

「私のため、ですか?」

「えぇ。教師と生徒とはいえ男女ですし変な噂がたってはいけません。それに、貴女にはハーヴェンク・カルシスト公爵という素敵なご婚約者様がいらっしゃるのですから。それこそ彼のためにも、家名のためにも……」

「ナターシャ様」


言葉を遮るように、私が声をかければ、わずかに彼女の方が震える。

畳み掛けるような言葉の羅列。その言葉の中にわずかに感じる苛立ち。そして、なぜか話題に上がったバイエルン先生。

勘違いだといいんだけど、一応聞いてみるか。


「私の勘違いであればすみません」

「な、なにかしら……」

「ナターシャ様は、バイエルン先生のことをお慕いしているのですか?」


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