118話:甘い宝石箱
欲しい紅茶も変えてホクホクの気分になった私。
後はアニーのお土産に、人気のケーキショップのお菓子を買って帰ればいいかな。
「たくさん買ったね」
「うん。どれも味がすごく好みなの。あ、そうだ」
紙袋の中をガサゴソ漁って、目的のものを取り出し、ハーヴェに渡す。
今日購入したもので、元々買う予定じゃなかったけど、店主さんにおすすめされて買ったものだった。
「これは?」
「ハーヴェにあげる。体の疲れが取れるんだって。騎士科の授業大変だろうし、ハーヴェは訓練頑張ってるから、休む時はしっかり休んでね」
これはその時に飲んで欲しいと思って買ったものだ。まぁ、味見したわけじゃないから、味の保証はできないとは付け加えたけど。
すると、ハーヴェはとても嬉しそうに笑みを浮かべていた。その笑顔が、なんだか幼く、可愛く見えてしまった。
「ありがとうレーフ、大事に飲むよ」
「飲むっていってくれてよかった。ハーヴェのことだから飲まずに飾ってるっていうかと思った」
「んー、確かに無くなるのは勿体無いけど、飲まないとレーフ怒るだろう?」
「あたりまえでしょ。疲れをとるために買ったんだから、飲んでもらないと」
「うん。だから、稽古後に寮に帰ったら飲むよ。ありがとう」
ハーヴェは基本、私からもらったものはなんでも嬉しそうにしている。本当に嬉しいんだろうけど、たまに無理に喜んでるのではないかと思ってしまう。
「あれ、こんなところにお菓子屋さんなんてあったっけ?」
ふと足を止めたショップは、飴や金平糖、チョコにスナック菓子と、たくさんの種類のあるお菓子屋さんだ。
「お菓子詰め放題だって。すごいね」
表に出されている説明書きには、金額によって袋のサイズが異なっており、規定のラインまで好きなお菓子を好きなだけ入れることができるそうだ。
袋だけじゃなくて箱もあるみたい。いっぱい入りそう。
「入ってみる?」
「え?」
「入りたそうな顔してたから。せっかくなら少し買って帰ろうか」
「……うん」
店内は結構広くて、客層は小さな子供たちがたくさんいた。もちろん、カップルもちらほらいる。
カラフルな装飾は、まるでお菓子の家に迷い込んだと思わせるほどだった。
「いらっしゃいませ。当店は初めてですか?」
「はい」
「では、説明させていただきますね」
店員さんがお店のシステムを丁寧に教えてくれる。内容は表の説明書きとほぼ同じだった。
あくまでライン下まで。袋は伸ばして大きくするのはなし。まぁこういう規則があるってことは、少なからず破った人がいるんだろうね。
「サイズはどうされますか?」
「箱の一番小さいものでお願いします」
「かしこまりました。お支払いは前払いでお願いします。入れ終わりましたら、こちらで確認をし、問題なければ包装の方させていただきます」
「わかりました」
定員さんから箱を受け取り、早速お菓子を詰める。
ハーヴェも同じように箱の一番小さいものを購入していた。
「わぁ、どれにするか迷うな」
前世の小さい頃、唯一母に連れて行ってもらったお菓子屋さんがこん感じだった。
自分で好きなお菓子を選んで、スコップで掬って袋に入れる。なんだかその時を思い出す。
「んー、色々種類があるけど、なんだか一つの箱にまとめていいのか不安になるね」
「そうだね。でも、飴だけでも色々種類があっていいよね」
丸いものから、中に模様があるもの。フルーツに飴をコーティングしたものもあったりする。
他のお菓子もそんな感じで、たくさんの種類があるように見せている。よく考えられているなぁ。
箱もそんなに大きくないし、今日は飴と金平糖をいろいろな種類を少しずつ入れようかな。
「綺麗……」
箱の中は甘い宝石で埋められている。普通の宝石よりも、こっちの方が私は好きかな。
「ありがとうございました」
思いがけない買い物だったけど、いいところを見つけた。今度は、アンジュとシルビアと来ようかな。
「レーフ、口開けて」
そういわれてハーヴェの方を振り向いた瞬間、急に口の中にお菓子が入れられた。
甘い砂糖の塊を舌の上でコロコロと転がす。
幸せの塊だ。
「ふふっ」
「なに?」
「いや、こうやってると思うんだ。あぁ、レーフもやっぱり可愛い女の子なんだよなぁって」
「なにそれ、馬鹿にしてる?」
「そうじゃないよ。でも、レーフって基本守られるより守る側でしょ。だから、可愛いよりもかっこいいって印象が強いんだよね」
確かに、私は守られるより誰かを守りたいってタイプだし、女の子らしいことより、どちらかといえば男の子がやるようなことを好んでやるタイプ。そう聞くと令嬢らしくないのかも。
「でも、それでもやっぱりレーフは普通の女の子みたいに、可愛いものや甘いものが好きで、男装もするけど、ドレスを着ている時もすごく魅力的に感じる。それを実感するとね、愛おしさがとても込み上がるんだよ」
また、彼がそんなふうに私を見つめる。
だけど深々とため息をつく。この子は何をいってるんだろうっていうため息。
だって、根本がおかしい。だって彼は、どんな私に対しても、私を愛おしく思っているのだから。
「私、いつか本当にハーヴェに閉じ込められそうね」
「……そうならないように、倫理観はしっかり持っておくよ」
その後、お互いの従者たちのお土産で人気のケーキショップの一番人気であるプリンとシュークリームを買って、寮に戻った。