116話:噂話
街はお祭りでも開催されているかのようににぎやかで人が溢れていた。
学園もお休みということで、生徒の姿もちらほら見える。
変身魔法で髪と目の色を変えているから私やハーヴェだってことは気づかれてないけど。
「二つください」
「は、はい!」
イケメンであることは変わりないので、すれ違ったり、お店の店員さんはハーヴェの姿に顔を赤くしていた。
「はい、レーフ」
「ん、ありがとう。お金……」
「いいよ。これぐらい出すから」
しかし、残念ながら彼の眼中にはないようで、すぐに彼の視線は私に向けられた。
私が食べてる様子をニコニコしながら、どこか愛おしそうな顔で見つめるハーヴェ。そんなに見られてると食べにくいのだが……。
「レーフはどこか行きたいところない?」
「んー……そういえば前にバイエルン先生が飲ませてくれた紅茶が気に入ってね。店頭で売られてないか聞いたの」
「そこに行きたいの?」
「うん。ただ、店名は聞いたけどお店の場所がわからなくて」
残念ながら地図を書き留めるのを忘れてしまっていた。
こんなことなら、この前の授業で聞いておけばよかった。
「じゃあ僕が聞いてくるよ。薬草を取り扱ってる店なら、何か知ってるかもしれない」
「じゃあ私も……」
「歩き回るかもしれないからレーフはここにいて。あ、知らない人にはついて行かないようにね。後、問題も起こさないように」
「心配なら連れて行けばいいでしょ」
少しだけムッとした顔をすると、ハーヴェには可愛い顔に見えたのか、クスリと笑うと、髪の毛を掬い上げて口付けをしてきた。ホント、当たり前のようにそういうことするよね。
「すぐに戻ってくるからね」
そう言って、彼は人ごみの中に消えていった。
広場の噴水前のベンチ。街の人々が休憩や、座って買ったものを食べたりするために、たくさんのベンチや石を四角く切って椅子がわりに至る所に置かれていた。
人の通りも多いし、何か問題が起きればすぐに人の注目を浴びるだろう。
まぁ、そんなに時間もかからないだろうし、大人しく待つか。
「そういえば、聞いたか」
不意に、隣のベンチに腰掛けている男たちの会話が耳に入ってきた。
暇だし、学園にいる間はあまり噂とかも聞かないし、ちょっと世間のことでも聞きますか。
「最近、至る所で変死体が見つかってるんだとよ」
「変死体?魔物にでも襲われたのか?」
「いんや、なんでも外傷が全くないのに死んでんだと」
「それなら、毒とかじゃねーのか」
「それも違うんだとさ。毒も、死ぬような何かが体の中から見つかったりしてないんだとさ」
外傷もない。毒の反応も、死ぬような何かが体の中から見つかったわけでもない。人によるものか、それとも魔物の仕業か。
「その変死体もだが、幼い子供も何人か行方不明になってるんだとよ」
「人攫いか?それも珍しいことじゃないだろ」
「まぁうちの国は奴隷制度禁止されてるけど他国は違うだろ。でも、どうも人攫いじゃないみたいなんだよなぁ」
「というと?」
「なんでも、行方不明の子供を捜索してる時に、その子供の服を見つけたらしい」
話をしている男によれば、子供の服だけがあって肝心の子供の姿がない。しかも、その服の周りや中には大量の灰があったそうだ。
影も形もない子供。まるで、その子供が服と一緒に残っていた灰になったようだと。
「馬鹿馬鹿しい。そんなわけないだろ」
「バカにできないだろ。そんな魔法があるかもしれないし、まだ見つかってない新種の魔物の仕業かもしれないだろ」
「まぁ否定はできないけどなぁ……」
その後は、嫁がうるさいだの、どこの酒がうまいだの、ある店の女がエロいだのなんだの、あまり外で話すのは良くないのではと思うような会話をしていた。
にしても、子供の行方不明に変死体かぁ……随分と物騒な話だな。陛下やお父様はしってるのかな。
「レーフ」
一通り会話を聞き終えた後、すぐにハーヴェが戻ってきた。
近くの薬草店で話を聞いたらしく、意外と近い場所にお店はあるみたいだった。