113話:毒
バイエルン・ルルテーラー。
ルルテーラー侯爵家の現当主である。
しかし、現在は学園で魔法薬学の教師として雇われ、生徒たちに教えている。
好きなことは薬作りと毒草の実験。
いろいろな危険な薬草を取り扱うことから、教師塔でもかなり隅の方に研究室がある。
口調はおとなしく、身なりはあまり気にしていないようでかなりだらしない。猫背にメガネで若干陰キャに見えるが、整えればかなりモテる容姿だろう。
姉のイルミナティ・ルルテーラもそうだが、趣味のためならなんでもやる過激派で有名だが、薬草を多く知っていることもあり、彼が入れるお茶は高級レストランや王宮で出されるようなお茶とは比べ物にならないほどに、うまいとのこと。
そんな変人薬草スペシャリストのバイエルン先生の研究室で、自分の体質や薬草の勉強をするようになって早一ヶ月が経ちました。
最初は自分の体質の実験。どの状態異常が効いて、どれが効かないのか。
その後は、効かなくても味の違いを感じるのかなどなど、さまざまな実験を行った。特に毒の実験の時は、学園長にも色々規制されているせいか、使えるとなると目がかなりイキイキしていた。
そして、ある程度私の体質についてわかると、今度は毒草についての勉強を行った。
ちなみに、植物だけではなく、当然この前のアンデットドラゴンや黒紫の森に生息する生き物のように、自身の体に毒を持つものもいる。そいうのについては、彼の姉のイルミナティ先生の専門なので、別日に授業を受けている。
どうして私が、自分には効かないのに毒、というかこういう状態異常の勉強をしているのか。まさに、私が効かないが故だ。
実験の結果、私は全ての状態異常が効かない。それは効果が強い、弱い関係なく全てのもの。そして、味の違いもなかった。水に液体化された毒を混ぜて数杯か飲んだが、全て同じ味だった。
だから、もし毒が入っていても気づくことがない。でももし、それを誰かが誤って口にしてしまったら。
無知は探究に対する怠惰。昔読んだ小説にそんな一文があった。
知らなかった。で、人の命というのは簡単に消えてしまう。そうならないためにも、知識は必要なことだ。私が効かなくても、身近な人に危険が及んだ場合、すぐに対処が必要になる。
元々本で知識はあったけど、こうやって実物を目にすることで本に書かれたものを再確認したり、実際の違いなんかを把握する。
「それじゃあ、今日はこの辺で」
「ふぅー」
特別授業はいつも授業が終わって約3時間。薬草学の方は週に3日。動物の方は週に2日受けている。
「これ、姉さんが作ったボアベアーの肉のシチュー。昨日の残りだけど、よかったら食べて」
「ボア、ベアーですか」
ボアは確かブダで、ベアーは熊。豚の熊?まぁ魔物だろうけど、豚と熊、どっちの味が強いのかな。
「いただきます」
シチューを一口スプーンで掬って、口に運ぶ。
噛もうと歯を軽く当てた瞬間に肉は崩れ、とてもつもない脂身が口の中で火尖った。
「んー!!」
「おいしいかい?」
「はい!!なんていうか、柔らかいです!後脂身が広がって、その油もとっても甘くて」
「まだ、姉さんからボアベアーのことは聞いてないのかな?」
ボアベアーは予想通り魔物。ハイウルフと同じランクでCランク。
体長は小さなものでも5メートルあるそうだ。
何か状態異常系のものはないらしいが、攻撃の破壊力もかなりあり、嗅覚も優れているそうだ。
肉は熊肉同様にとてつもない臭みがあるそうで、普通の熊の五倍の匂いがするそうだ。
そのせいで、食べられないものと言われているが、その臭みを取り除くことで出てくる豚肉のような味わい。いや、普通の豚肉の5倍の旨みが詰まった肉が出てくるそうだ。
自然界は弱肉強食。美味しい上に力が弱いとあっという間に絶滅コース。ボアベアーの場合は、その破壊力と肉の臭みで肉の旨さを隠し、絶滅を免れているのだろう。
にしてもうまいなぁ……アンジュ、こういうの好きだって言ってたし、今度教えようかな。
「これもどうぞ。きのみと薬草を混ぜたパウンドケーキと、こっちは疲れに効く紅茶。使った薬草は目の疲れに効く」
これまた美味しそうなケーキ。紅茶も鮮やかな青い色をしている。
食べ物において、青い色は食欲を減少させると効くけど、なぜか隣のパウンドケーキと並べられると、目を引かれるほどの美しさを感じてしまう。
パウンドケーキや紅茶に使われている木の実や薬草の話も聞いた。
特に、紅茶に使用されている薬草は、熱帯地域。つまり南側にしかないものだそうで、今この研究室でいろんな場所でも育たないか研究してるそうだ。
見た目に反し、甘みが強く、でもほのかに酸味がある。柑橘類に近い味わいだ。
この紅茶はとても気に入った。それに気付いたのか、先生に少しだけ茶葉を分けてもらった。