109話:特異体質
暫くして、ハーヴェが呼んでくれた先生たちがやってきた。
ただ、その本人は先生を呼んだ後、そのまま授業に戻ったらしい。ずっと側に居たとあの後聞いたからお礼を言いたかったけど、また今度会った時にちゃんといよう。心配もしただろうし、何かお詫びもしたいな。
とりあえず、私は先生たちに事情を説明した。
聞いていたハイウルフがめちゃくちゃ大きかったこと。
なぜか休憩していた湖が変色してアンデットドラゴンが出てきたこと。
逃げようとしたけど、アンデットドラゴンの状態異常の霧のせいで身動きが取れずに、先生たちが来るまで足止めをしていたこと。でも、結果的にアモル様が倒したことも。
「なるほど、そんなことが」
「まずは、死人、大怪我の生徒が出なくてよかった。君も、仲間を守るために頑張ってくれてありがとう」
感謝されるとは思ってなかったからちょっと気恥ずかしい。でも、そっか。一応今回の行動は間違ったことじゃなかったんだ。また自己犠牲とか言われるかと思ったけど。
「一応暫く授業はお休みしてください。状態異常の効果がないとはいえ、彼ら彼女らを守るために魔力をずいぶん使いましたからね」
「そうです。私、なぜかアンデットドラゴンの状態異常が効かなかったんです」
戦闘中、確かにアンデットドラゴンが放った状態異常の霧を吸い込んだ。どんな効果まではわからなかったが、それでも体に全く異常がなかった。
麻痺特有の痺れも、毒特有の苦しさも何もなかった。
「可能性としては、トレーフルさんが特異体質だということです」
「特異体質?」
「稀に、そういう人がいるんです」
先生があげた例には「魔力を受け付けない体質」「炎に耐性がある体質」「人を魅了する体質」などなど。
私の場合は、状態異常系が効かない体質の可能性があるそうだ。こればっかりは、調べてみないとわからないそうで、人によっては、毒だけが効かなかったり、毒以外は効かなかったりとさまざまあるそうなので。
とりあえず、今後は調査のため魔法薬学の先生の実験室に通うように言われた。そこで、毒や麻痺の薬なんかを飲んで、私の状態異常を調べるそうだ。ただ、危険な実験にはなるため、もしもの時のことを考え、神獣のアモル様にも許可をもらって欲しいと言われた。
「討伐したハイウルフは、暫くトレーフルさんの空間魔法の中で保管をお願いします。こちらも後処理に追われてまして」
「……原因は流石にまだ、ですよね」
先生たちは顔を歪ませ、代表でナーヴィス先生が返事をした。
ただ、誰かの手によって召喚されたであろうということは発覚しているらしい。
湖に溜まった紫色の液体は、形は違えど魔法陣や魔道具と同じ役割をしていたようで、あれによってアンデットドラゴンがあそこに現れたと。
誰かの手によって……召喚されたのは森の出入り口から一番遠い場所。
無作為に生徒を襲わせるなら、もっと出入り口に近いところに召喚するはず。先生たちを恐れた?それとも、私たちのグループの誰かを狙った?
……やめよう。私が調べなくてもきっと先生たちが調べてくれるだろう。
私はおとなしく療養していよう。
「他の生徒が目を覚ましたら伝えるように言っておりますので、暫く安静にしてくださいね」
「わかりました」
先生たちはそのまま出ていった。
どれぐらいの間ここにいることになるかわからないけど、何もしないのはとても暇だ。
「ダイジョウブ?」
「オヒルネスル?」
「ケガイタイ」
とはいえ、この学校にも精霊たちはいるので、暇で死にそうというわけではない。どんな存在でも、話し相手がいれば時間というものはあっという間に過ぎていく。