106話:アンデットドラゴン2
死んでもドラゴン。魔法無効を使えてもおかしくない。完全に頭からそれが抜け落ちていた。
飛行を失い、体が勢いよく地面に叩きつけられる。
その拍子に呼吸をしてしまう。
アンデットドラゴンもそれを見逃さなかったのか、紫色の霧を私に浴びせた。
私は激しく咳き込んだ。思いっきり呼吸をしてしまったから完全に体内に取り込んでしまった。
どうしよう、体が毒に侵されて……
「あれ、苦しくない?」
状態異常の霧を吸ったはずなのに、私の体に異常はなかった。
体もし痺れないし、胸が苦しくなったり、体から力が抜けるなどもない。至って普通。
「なんで?」
でも、状態異常が効かないからと言って今の私に何ができる。
「くそっ!」
何度も何度も魔法を使う。
発動しては無効化され、発動しては無効化され。
後半はもうほとんど意地のようになっていた気がする。
そして、脳裏に魔法が無効化されるイメージが沸いた瞬間、私は魔法を使うのをやめた。
魔法が使えない、武器もない。このサイズじゃ物理攻撃も効かない。完全に詰んでしまった。
ここで死ぬの?前世よりも若い年齢で?いやだ、そんなのいやだ。
まだみんなを幸せにしてない。私も、今世は幸せになりたい。死ぬなら、幸せになってからがいい。
「グギャアアアアアアアア」
アンデットドラゴンが雄叫びをあげ、鋭い爪が私目掛けて飛んでくる。
死を覚悟して、私は目を閉じた。
だけど、一向に痛みはこず、同時に見知った声が聞こえた。
『愚かな子孫よ』
ゆっくりと目を開ければ、見知った白い腕が、アンデットドラゴンの首を強く握り込んでいた。
『未練ある死だったのかも知れん。汝にとって望まぬ復活だったのかも知れぬ。だが、そんなものは我には関係ない。汝は暴れ回り、我が友を傷つけようとした。それは、万死に値する』
「アモル様……」
『眠れ、我が子孫よ。今度こそ、目覚めぬ死だ』
ゆっくりとアモル様の手が離れると同時に、アンデットドラゴンの足元から天に向かって光の柱があがった。
アンデットドラゴンは雄叫びをあげながら、散り一つ残ることなく消えていった。
「アモル様……」
亀裂の向こう、黒い空間だけがあった。アモル様は返事を返さず、亀裂はそのまま消えていった。
「トレーフル様!!」
亀裂が消えると同時に先生たちがやってきた。
息を荒げながら辺りを見渡し、何があったのかを理解しようとした。
防御魔法に守られる4人と今にも倒れてしまいそうな私の姿。
「一体何が……」
なんだかどっと疲れた。先生に状況を説明しないといけないけど、今は眠りたい。だって、すっかり日は傾いていて、眠らないといけない時間になってるんだから。
だからごめんなさい、先生。事情は、目を覚ましてから話すから……。
そして、私はその場で倒れるように眠った。