103話: 魔法討伐4
「っ!まずい」
ハイウルフの視線が4人の方に向けられ、特徴の一つであるそのスピードで一気に距離を積める。
「させるか!」
ハイウルフが爪を振り上げ、振り下ろすまでの時間は1秒にもみたない。ほぼギリギリの瞬間だったけど、なんとか私の防御魔法が間に合い、4人を守れた。
それにしても流石にこのサイズのハイウルフの攻撃を無傷で防ぐのは体力を使う。反射的な魔法展開と、その威力を殺すために頑丈にしたからそれなりに魔力も持って行かれた。
実際は魔力消費よりも反射的な魔法展開に体力持っていかれたんだけどね。
「ルヴィー、炎魔法で長時間ハイウルフを燃やして」
「は?ファイアバーンでも効かなかったんだぞ!」
「いいから!私が合図するまでやめないで!
「……わかったよ!」
若干不機嫌そうにも見えたけど、ルヴィーは私の指示通りに魔法を使用してくれた。
「フランマラオム!」
広範囲の炎魔法でかなりの魔力消費をするがその威力と範囲の広さで高位とはいかないが中位の魔法。さすがルヴィーだ。
「「チェイン!」」
炎でもがくハイウルフ。あまりあっちこっちに動かれると標的に集中する分魔力の消費が激しくなる。
そのため、シルビアとミセリアが二人同時に拘束魔法を使用して動きを封じる。
この手の拘束魔法は炎に弱いが、50年前に炎属性に強い拘束魔法が開発されており、今では魔物を拘束するのに使用されている。
逃げることもできず、炎の牢獄に拘束されるハイウルフ。
まだ、まだ、まだ……
ルヴィーの呻き声が聞こえる。
もう少し、もう少しだけ待って……
燃え上がる炎をじっと見つめ、私はその瞬間を待った。
「きたっ!ルヴィー魔法解除!」
私の合図と共に、ルヴィーが魔法を解除する。
かなりギリギリだったのか、ルヴィーはその場で倒れる。
炎消えたがそれなりにダメージはあるみたいで、ハイウルフもすぐには動けなかった。
休ませるわけがない。私はそのまま手をかざし、広範囲の氷属性の魔法を展開させた。
ハイウルフは一気に氷付けになり、そして数秒後にそのままばたりと倒れた。
フランマラオムと同等の氷属性の広範囲の中級魔法「グランキエースクライト」。
この魔法は、幼い頃に魔法暴走で一度だけ発動したことがあったもの。
魔法のコントロールができるようになってから、初めて使ったけどうまくいってよかった。
「ルヴィー様!!」
ふっ、と一息をついたけど、シルビアの声にすぐさま我に返って振り返る。
視線の先、地面に膝をつくシルビアと、そんなシルビアの膝に頭を置くルヴィーの姿。
側でキリクとアンジュが回復魔法を使用していた。
口も表情も動いているからなんとか無事みたいで、私はホッとした。
流石にあれは無謀すぎたかもしれない。もしかしたら、もっといい方法があったかもしれない。
その方法はもしかしたら、ルヴィーをこんな状態にしなくて済んだかもしれない。
「おい、なにしてんだよ」
少し回復したのか、少し離れた場所にいる私にルヴィーが声を変える。
なんとまぁ気まずいなと思いながらも、ゆっくりと近づく。
「平気?」
「お前には平気に見えるか?」
「いや、えっと……ご」
「謝んな」
言葉を遮るようにルヴィーが言う。
少しご立腹の彼は私に手招きをし、それに素直に従い地面に膝つく。
その瞬間、勢いよくデコピンをしてきた。
「これは俺に無茶させた分」
「……安くない?」
「あんだけでかいハイウルフを倒したんだ。多めに見てやってんだよ」
「……他に、もっといい方法があったかもしれないし」
「あんな状況じゃ、あれが最善だ。お前の判断は間違ってない。むしろ同じような魔法使ってお前がピンピンしてる方がムカつく」
顔を歪ませながらそう言ってくる彼に、私は思わず笑ってしまった。
いつものようにそれにルヴィーが怒る。
さっきまであれだけ死に物狂いで戦っていたのに、終わってしまえばいつも通りの空気が流れる。
ただ、そんな様子を、少し離れた場所から、彼はじっとみつめていた。