102話: 魔法討伐3
話もまとまり、ついに私たちは洞窟の中に足を踏み入れた。
気づかれないようにするために灯りは使わない。頼れるのはキリクの探知魔法だけだ。
「どう……?」
「……振動から、やはり聞かされていたものよりも何倍も大きいです」
「マジか」
「さて、戦う前にこれだけは絶対としよう」
みんなの前にたち、指を一本ピンと立てる。
絶対的な条件。何があろうとこれは守ることという内容。
「命優先」
死んでしまっては元も子もない。というか私は絶対に死なせない。
みんなハッピーエンドにするんだ。ここで誰かが死んでしまったら、どれだけの人が悲しむか。
だから絶対にみんな生きて帰る。
「それ、お前が言えるのか?」
「一番命を粗末にしてそうですよね」
「え、シルビア酷い!!」
「でもまぁそうだな。自分の命可愛さに逃げるのははずかしいことじゃない。死ぬよりも無様に性に縋りついた方がいい。生きてさえいればチャンスは何度でもあるんだからな」
おいおいかっこいいこと言うじゃないか。
全くずいぶん成長したものだな。
母親が成長した子供を見つめるような目でルヴィーを見れば軽くこづかれてしまった。照れたのかな。
しばらく進めば洞窟の奥。ハイウルフの巣に辿り着いた。
眠っているがその寝息はなんとも迫力がある。
ここに来る途中、風が流れてきたように感じたが、あれはハイウルフの鼻息だったようで、その勢いは体の大きさを物語っている。
まるでダンジョンボス。先生たちも把握してないとはいえ、学生が普通立ち向かう相手じゃない。
「予定通り、メインで戦うのは俺とレーフ」
「シルビアとミセリアは後衛で私たちのサポート。アンジュとキリクはシルビアとミセリア優先で、私たちのサポート」
全員が頷き、全員の視線が眠るハイウルフに向けられる。
まずは私が一太刀入れる予定だ。
氷魔法で剣を作って構える。浅く呼吸を何度かし、ぐっと腰を落として一気に距離を詰めて一太刀。
あわよくばそれで致命傷にあって欲しかったけど思ったよりも刃が入らなかった。体はかなり頑丈だ。
「ファイアバーン!」
ハイウルフは雄叫びを上げながら体をのけぞらせるが、その瞬間、ハイウルフの真下から激しい炎が吹き上がる。
うひゃあ、ルヴィーの炎魔法派手だな。
それでもやっぱりハイウルフは倒れない。それどころか立ち上がって私たちを見下ろす。
「うわぁ、大きい」
あくまでも想定の5倍と思っていれば、実際見たときに平気だと思っていたけど、本当に5倍とは思わなかった。そんな体じゃ、この洞窟は手狭いだろうに。
いやでも、他の洞窟はここよりも小さかったし、確かに妥当な場所なのかもしれない。
私は手をかざし、空気中の水分を集めて圧縮していく。
ここ、と言うときに圧縮した水を飛ばすが、あたりはしたものの、致命傷は与えられない。
「頑丈だなもう!」
「ウォーターバブル!」
シルビアがたくさんの水の球体を作り出し。それをハイウルフに当ててびしょびしょにする。
下級魔法ではあるが、その数が尋常じゃないためこの感じだと中級ぐらいの勢いがある。
びしょ濡れになったハイウルフは水滴を飛ばそうと体を傾ける。
だけどその瞬間。
「サンダースピア!」
激しい雷がハイウルフを襲う。
ミセリアの雷魔法。シルビアが水魔法でハイウルフをびしょびしょにして、そこに雷魔法を当てることで威力は倍増。流石のハイウルフも体をフラフラさせている。
だけど、その攻撃はハイウルフにとってターゲット変更の合図だった。