10話:精霊姫とのお茶会2
クリクリとした可愛らしい大きな目が、より大きく開かれて驚いていた。
予想通りという反応だ。
「どうして、ご存知なのですか?」
「んー、知っているっていうかそうかなって。予想かな」
実際、授業でもそういう類の勉強はした。ただ、精霊が見えるのは今の時代では稀で、見えなくて当たり前。だからこそ見えている人間を頭のおかしな者扱いする。
「しかも、自分の中の魔力はもちろんだけど、精霊の力を借りることもできるでしょ?」
「は、はい。その通りです……」
「そっか。じゃあシルビア嬢は精霊師なんだね」
自身の中にある魔力を使って魔法を使用するのが一般的だが、彼女のように精霊が視える人はそれにプラスして精霊の力を借りて魔法を使用することができる。
一般とは別物とされており、そういう人たちを「精霊師」と呼んでいる。
だが、もちろんそれはもう随分と昔のことで、今の時代は稀。精霊師はこの世界の1パーセントにも満たないほどの貴重な存在だ。
「誰もいないところでの会話。何もないところへの笑み。その全てが、精霊に対して、だったんだよね」
「……はい、その通りです」
シルビアは話してくれた。自分は人が見えない者が見える。両親に話せば、最初は首を傾げていたが、ちゃんと調べてくれて、自分は精霊が視えることがわかった。だけど、普通は見えないそれを当たり前に思ってはいけない。そう言われていたのだが、彼女にとってはそれが当たり前だったため、ついつい精霊と会話をしてしまう。それを見た周りが変人扱いをして噂がたってしまったと。
「お城でも、お父様が悪く言われていると耳にして、私は悲しかったのです」
「そっか。うん、シルビアには当たり前だもんね。それは周りに合わせるなんておかしいよ」
「しかし、そうしなければ……」
「胸を張ってシルビア。あなたは特別なの。誇っていいものなんだよ」
彼女とルヴィーの婚約は、噂が消えることなく、そして明かされることなく行われた。だから、ルヴィーはシルビアを愛することはなかった。
でも今回は、そうさせない。
私が魔法と向き合ったように、シルビアには精霊が視えることはすごいことだとわかってもらわないと。
「ねぇシルビア。今も精霊はいるの?」
「え?あ、はい」
「どこにいるの?いっぱい?」
「はい。えっと……ここと、ここと、ここ」
彼女が指差すところには、もちろん何もない。だけど、私はそこを見つめて軽く会釈する。
「トレーフル・グリーンライト、と言います。初めまして精霊さん。精霊さんは、何が好きですか?」
「……えっと、甘いお菓子が好きだそうです」
「ふむ……じゃあこれとか好きかな」
私はケーキの上に乗っていたイチゴを精霊のいるところに持っていく。先っぽにはクリームがついており、より甘そうだ。
私がじっと見ていると、イチゴの先がなくなった。
「わ、え!た、食べてくれたの!?」
「ふふ。甘くて美味しいと言われてます」
「よかった。あ、食べたいものがあったら好きに食べていいよ」
私がそういえば、精霊たちは喜んだのか。テーブルにあったお菓子の一部が消えてなくなった。
「不思議です。両親には言ってはいけないと言われていたのですが……トレーフル様はお優しいのですね」
「優しいとか関係ないよ。精霊なんて、おとぎ話のような存在だけど、いるってわかるとドキドキするでしょ」
「……そう、ですね……私も、初めて見たときはドキドキしました」
シルビアは精霊を見ているのか、テーブルの一部を見つめて笑っている。
うん、暗い顔よりも今みたいに笑っている方がとても魅力的だ。あぁその笑顔守りたい。一生……
「……ねぇシルビア。もしよければ、ルヴィーにも精霊のこと話さない?」
「ルヴィー……とは、どなたですか?」
「ルーヴィフィルドだよ」
「ルーヴィフィルド……え、王太子殿下ですか!?」
目を見開き、驚くシルビア。まぁそういう反応するだろうね。
でも、彼女も耳にはしてるだろう。将来的に自分が彼と婚約することは。
「ルヴィーはね。シルビアの噂のせいで婚約を受け入れてないんだ。でも、話したらきっと変わるよ」
「し、しかし……」
流石にハードルが高かったか……おどおどするシルビア。くっ、その仕草も可愛い。
しかし、将来的にこの二人には幸せになってほしい。そして、私は二人を守りたい。
「大丈夫、私がいるから」
彼女の手をぎゅっと握り、笑みを浮かべれば、ほんのり顔を赤くしながら、シルビアは「はい」と答えた。
とりあえずは、私とシルビアとルヴィーの3人でまずはお茶会をしよう。
いいね、こうやって幼い頃仲良くなることで幼馴染というポジションをゲットできるんだな。最高。