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第三章〜⑳〜

 小嶋夏海の語ったところによると、今日、ショッピング・モールの駐輪場で気分が悪くなったのは、乗用車と少年の事故未遂の場面を目にしたことにある、とのことだった。

 小学生の頃、よく面倒を見てくれていた祖母が、小嶋と二人で買い物に出掛けた時に自動車との交通事故に遭い、彼女は、至近距離で、その瞬間を目撃してしまった、という。

 幸い、その事故で祖母はケガを負っただけだったが、入院は長期化し、それ以後、以前のように元気な姿は見られなくなってしまったそうだ。


「そんなことがあったのか――――――つらいことを思い出させてしまったんじゃないか?申し訳ない……」


こちらが、謝意を言葉にすると、


「ううん――――――今日は、坂井に迷惑を掛けちゃったからね……急に体調を崩したから、心配も掛けたと思うし、理由を話しておきたい、って思ったから。こっちこそ、ゴメンね。こんな話しをきいてもらって……」


と、彼女も申し訳なさそうに謝罪する。


「いやいや、小嶋が話したいと思ってくれたのなら、問題ないゾ。話してくれて、ありがとな」


 そう返答すると、


「ううん、こっちこそ、聞いてくれて、ありがとう」


彼女は、穏やかな口調で言ったあと、


「それより、夏休みの課題は進んだ? 午後は、宿題どころじゃなかっただろうし……」


と、こちらを気遣ってくれた。

 その心遣いはありがたいのだが、午前中からのあれこれで『夏休みの友』との関係は進展していなかったため、彼女に気をつかわせてしまったことは、少し心苦しかった。

 それでも、


「あ〜、午前中はそれなりに順調に進んでたんだけど、午後は色々あったし、家に帰って来てからも、ちょっと宿題に手を付ける感じにならなくてなーーーーーーいや、小嶋のことだけじゃなくて、昼間に大嶋と話したことで、ちょっと気になることもあったからな……」


と、正直に現状を伝えると、


「そっか……迷惑掛けちゃって、ゴメンね。お詫びと言ってはなんだけど、今から通話したままで、今日の遅れを取り戻さない? 通話しながら勉強すると、捗るって言うし、課題でわからないところがあったら、聞いてもらってイイから!」


 彼女は、想定外の提案をしてきた。

 確かに、無料通話アプリを繋ぎながら勉強すると、集中力が保ちやすい、というネット記事を読んだことはあるが――――――。


「今からか? まぁ、こちらとしては、ありがたい話しだが……それより、体調に問題はないのか?」


 疑問に思ったことを率直にたずねる。

 すると、


「うん、体調の方は、もう大丈夫だから! じゃあ、準備ができたら、八時からの開始にしない?」


 今度は、開始時刻を提示してきた。

 スマホに表示された時計を確認すると、八時まで、あと五分ほどしかない。相変わらず強引なヤツである。

 ただ、声にいつものような快活さが戻っていることに、少し安心する。


「わかった。それじゃ、準備するわ」


そう言って、図書館に持って行ったカバンから、課題一式を取り出した。

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