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第三章〜⑦〜

『造波プール』で水に身体を慣らしたあとは、隣のエリアにある『アクアプレイシステム』と呼ばれる、ジャングルジム型の設備に移動する。

 このエリアも、水深が浅くファミリー向けだが、ジムの最上部に巨大な桶が設置されていて、ポンプを使って水を貯めると、桶がひっくり返り、そこから一気に水が流れ落ちる仕組みになっている。言うまでもなく、その瞬間は、迫力満点だ。

 これは、見た目のとおり、写真に収め甲斐のある《絵》が撮影できそうである。

 そんなことを考えながら、小嶋夏海の方に目を向けると、彼女も同じことを考えていたのか、


「さぁ、はりきって撮影しないとね!しっかり頼むよ、助手クン」


と言って、首に掛けながらも、パーカーで隠れていた『時のコカリナ』を手渡してきた。

 哲夫たち四人は、すでにジャングルジムの方に集まっている。

 さらに、康之は、


「チビども〜! もっと、気合を入れろ〜〜!!」


と、周りの子どもたちと協力しながら、ポンプで最上部の桶に水を送り続けていた。

 満杯になった桶からは、大量の水が流れ落ちてくることが予想されるため、スマホでの撮影は、ジムから少し距離をおいた方が良さそうだ。

 小嶋夏海は、ジムから五〜六メートル離れた位置で、かがんだり、中腰になったりしながらスマホを構え、撮影の構図の工夫に余念がない。


「ヨシッ! この角度でバッチリ」


 アングルが決まったのか、彼女がつぶやくと同時に、


「おぉ〜! そろそろ来るかぁ〜〜!?」


 哲夫の声が上がり、水をたたえた桶がユラユラと揺れ始めた。


「よっしゃ〜! もう一息だ〜!」


 康之の声と同時に、コカリナを右手に構え、そばに立つ撮影係の方に、少しだけ近づける。

 彼女も気配を察したのか、右側からコカリナに触れる感触が伝わってきた。

 それから、わずか数秒ほどで、桶がグラグラと揺れ、向かって左側に傾く。

 そして、傾いた桶から大量の水が一気に流れ出した――――――。

 瞬間、コカリナの裏面の切り替えスイッチを素早く動かす。


==========Time Out==========


 耳鳴りのような甲高い音を感じたあと、目の前の景色が動画から静止画に切り替わったかのように停止した。

 桶から溢れた水流は、白鳥が羽ばたいたように水しぶきを広げている。

 ジリジリと肌に照りつける真夏の陽射しも、感じられない。


「なかなか良いタイミングね。やるじゃない、坂井」


と、小嶋夏海は、満面の笑みをこちらに向ける。

 撮影係からのお褒めの言葉に気を良くしながら、


「せっかく、絶好の機会を得たんだ。しっかりカメラに収めてくれよ」


と、言葉を返すと、


「まかせておいて!」


 良い返事が返ってくる。

 そして、さきほど決めたアングルで、シャッターを切ると、スマホの画面をこちらに向け、撮影されたばかりの画像を見せてくれた。

 自分たちの視線より少し低めの角度から撮影された画像は、水しぶきの上に、夏らしい青空が広がり、プールの水面に立つクラスメートや子どもたちの水流を見上げる表情も、キッチリと捉えられている。


「おぉ! 良い写真が撮れたじゃないか!」


 素直に感想を述べると、


「ま、こんなもんね」


と、言いつつ、満更でもない表情を見せた。


=========Time Out End=========


 小嶋夏海との会話を終えた途端、


ザッパ〜ン


と、大量の水がクラスメートと子どもたちの頭上から降り注いだ。

 同時に、


「ヒャ~~~~!!!!!」


と、一斉に歓声が上がる。


「冷た~~い!!!!」


「おぉ~~~! 気持ちィィィィ!!!! 最高だぜ!!!!」


 はしゃぐ友人たちの姿を見て、素晴らしい構図の写真が撮影できたことを嬉しく思っていると、


「ナツミ! どう? 良い写真は撮れた!?」


と、大嶋裕美子から、声が掛かった。

 小嶋夏海は、親指を立てて、「YES!」と、肯定の合図を送る。


「いま、撮れたのは、水が落ちてくる瞬間だったから、今度は、水を被った瞬間を撮らせて!」


と、撮影係は、大きな声で四人にリクエストする。


「オッケ~! じゃあ、二人とも頼んだよ」


 大嶋は、スマホを構える友人に返事をしたあと、男子二名に給水役の仕事を振る。


「任せろ! ここが体育会系の出番だ!!」


「マジかよ~!? しゃ~ね~な、チビども、もうひと仕事だ!!」


 哲夫と康之は、それぞれ応答し、再びジャングルジム最上部の桶に、ポンプで給水を始めるのだった。

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