第三章〜⑥〜
そんな様子を眺めながら、小嶋夏海が、
「坂井も行かなくてイイの?一緒に『夏だ〜!』って、叫びたいんじゃない?」
と、問い掛けてきた。
「いや、それは、あの二人に任せておく。今日は、なるべく小嶋のそばに居ておきたいからな」
何気なく、答えたのだが、パーカーと麦わら帽で日焼け対策をしている彼女は、
「ハァ!?こんな所でナニ言ってんの!?」
と、声を上げ、顔を紅くする。その一言に、
「『ナニ言ってんの!?』って、当然だろ?オレが居ないところで、何度もソレを使われたら、たまらないからな。小嶋にコカリナを預けてる以上、そばに居た方が良いだろ?『生殺与奪の権を他人に握らせるな!!』って、有名なセリフもあるしな」
こちらが、淡々と答えると、彼女は、急に声のトーンを低くして、「あぁ、そう。そういうこと」と、不貞腐れるようにつぶやく。
さらに、
「こんな所まで来て、ストーカーに追い掛けられるとは思わなかった」
などと、言いながら、バシャバシャと音を立てながら、『造波プール』の浅瀬を歩いて行く。
そして、
「おいおい!待てよ、小嶋!」
と、彼女を追いかけて右足を踏み出した瞬間、
キン!
という耳鳴りのようなノイズを感じ、気付いた時には、何故か前のめりの姿勢になっていて、
バッシャ~ン!!
と浅瀬のプールに、豪快なヘッドスライディングを決めていた。
「おぉっ!!ビックリした!初めから飛ばし過ぎだろ、ナツキ!」
「なんだ!?急遽、野球部に入って夏の甲子園でも目指すのか?」
哲夫と康之が、口々にツッコミを入れてくる。
「なにやってんの、坂井」
と、大嶋と中島の女子二名も呆れ顔で笑っている。
そして、その間、小嶋夏海は――――――。
冷静にスマホのショートムービー撮影アプリを起動し、決定的瞬間をカメラに収めることに成功していたようである。
こちらを見ながら、ニヤリと笑った彼女は、
「みんな!スゴい動画が撮れたよ!」
と、クラスメートを集合させ、夏の大会で最終打者になり、内野ゴロを放ってしまった高校球児ばりの鮮やかな飛び込みシーンを視聴していた。
オレは、何も障害物がない場所でコケるようなタイプの人間ではないので、これには、当然、彼女の手元にあるアレの能力が関わっているだろう。
なぜ、こんな理不尽な目にあわされるのか、まったく身に覚えがないのだが、
(良くも、ヤッテくれたナ……)
ジト目で、彼女に視線を送ると、「フフン」と澄ました表情で、こちらを見返しながら、
「運動神経の鈍そうな坂井は、私の目の届く範囲に居たほうが安全かもね」
などと、わざとらしく一部を強調するような言い方をしてくるので、
「そうだな。小嶋のそばに居たほうが安心できるかも」
と、返答しておく。そして、
「手の掛かる男子に好かれると、ホント困るよね〜」
大げさにため息をつきながら発した彼女の言葉に、女子二名はケラケラと笑い、友人二名は苦笑している。
「なら、ナツキは、撮影係の小嶋の助手役を、しっかり務めてくれ」
と、哲夫から声が掛かった。
こうして、オレは、メンバー公認で、小嶋夏海とペア行動をすることになった。




