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第三章〜④〜

=========Imagine IN=========


 絶対零度を感じさせる視線で、こちらを見つめた小嶋夏海は、オレの言葉を聞き終えたあと、つとめて冷静な口調で、こんな答えを返してきた。


「ふ〜ん、まぁ、坂井自身が被験体になるなら試してみてもイイんじゃない? 時間が停止している間、たっぷりとムチで叩いてあげる。時間停止が解除された時、得も言われぬ快感が、坂井を待っているんじゃない?」


 そう言い終わった彼女は、いつの間にか黒っぽい衣装に身を包んでおり……


=========Imagine OUT========


 ――――――と、そこまで妄想……、いやイメージが膨らみかけたとき、


「おまたせ〜!男子〜」


という声が聞こえてきた。

 ロッカールームの方を振り向くと、大嶋裕美子・中嶋由香・小嶋夏海の三人が揃って歩いてくるのが見える。

 大嶋は、グリーンとホワイトのギンガムチェックにフレアという水着を着用していた。ビスチェスタイルのトップスは、胸元が中央に寄せられ、目を引くように演出されている。

 こちらに駆けてきた彼女は、オレたちの目の前で、くるりと右回りに身体をターンさせ、


「どうよ〜!?」


と、感想を求めてきた。

 小柄な彼女だが、背中の露出が大人っぽさを感じさせ、普段との雰囲気のギャップに少し驚かされた。


「お〜! かわいい水着だな〜、大嶋! 良く似合ってるゾ!」


 すぐに答えたのは、哲夫。

 こんな時、即座に褒め言葉が出る友人をリスペクトする。


「えへへ〜」


と、顔をほころばせる大嶋に、


「ユミコ、ハシャギ過ぎだって」


 苦笑しながら、ツッコミを入れるのは、中嶋由香。

 彼女は、タンキニというスタイル(「タンクトップ」と「ビキニ」を合わせた用語らしい)で、トップスはブラックのキャミソールタイプ、ボトムスはアイボリー色のショートパンツで、肌の露出は入園前の服装よりも抑えめに感じる。

 ただ、黒の麦わら帽とサングラスを組み合わせたスタイルは大人びて見え、とても同世代の高校生とは思えない雰囲気を醸し出している。

 駅での集合時と同じく、またも、呆けたように中嶋に見惚れている康之のようすに苦笑しつつ、


(まぁ、クラスメートでもなければ、中嶋みたいなタイプの女子と、一緒にココに来ることもなかったかも知れないし、仕方ないか――――――)


と、妙に納得してしまった。


「ユカとナツミが落ち着きすぎなんだって〜。プールサイドに来たんだから、楽しまないと! 二人がテンション上げなきゃ、岡村と坂井なんて、固まってるじゃン!?」


 大嶋が、康之とオレの方を指さしながら笑うと、中嶋も、


「二人とも、なにフリーズしてんの? ウケるんだけど」


と、言ってつられて笑う。

 しかし、気になる女子の非日常の姿に見とれている友人一名と異なり、オレが言葉を失っていた理由は、他にある。それは、このところ、毎日のように顔を合わせていた実験のパートナーの出で立ちにあった。

 いつもの澄ました表情で、こちらを見つめている小嶋夏海は、ボトムスこそエスニック感のあるフワリとしたフレア付きの水着に履き替えているものの、上半身は、一時間前、地元の駅に集合した時と同じく、薄手のパーカーを羽織っている。

 さらに、お揃いにも見える麦わら帽と編み込みのカゴバッグを持参しており、プールサイドにも関わらず、水と戯れる気はなさそうな雰囲気だ。

 シレっとした涼しい顔で立っているが、彼女の視線からは、


(どうしたの? 言いたいことがあれば、ハッキリ言えば?)


という、挑発的な意志が感じられた。


(ど、どういうことだってばよ!?)

(一昨日の『私がどんな水着を着るかなんて、興味ないんだ』というフリは、なんだったのか!?)

(いや、小嶋夏海に期待したオレが、阿呆だっただけか――――――)


 さまざまな想いが駆け巡るが、友人やクラスメートの女子がいる前で、それらを口に出すほど、自分もガキではない。

 ――――――が、こちらの表情で、彼女はすべてを察したようで、視線を外して、クスクスと笑っている。


「準備おつかれ。小嶋は、プールサイドでパーカー羽織って、暑くないのか?」


 ようやく、それだけ口にすると、横から大嶋が、


「だよネ〜? わたしも、『坂井がナツミの水着姿を楽しみにしてるんじゃない?』って、言ったんだけどねぇ……でも、ナツミは肌が弱くて、すぐに日焼けで紅くなっちゃうらしいから、ゆるしてあげて」


と、フォローを入れた。


「そうか、それなら仕方ないな。小嶋は、日焼けに気をつけながら楽しんでくれ」


 すかさず、哲夫が声を掛ける。


「ありがとう! 石川は、優しいね。誰かサンと違って……」


 小嶋夏海は、そう言って、意味深にな目線をこちらに向ける。


「いや、ナツキは、こう見えて、結構、気の利くオトコだゾ! なぁ、ナツキ!」


と、声をあげ、オレの背中をバシンッと叩く、哲夫。


「イ、イッテ〜〜〜〜!」


 男子バレー部のエースアタッカーにして次期主将候補のスパイクばりの平手打ちを喰らい、悲鳴を上げると、オレ以外の五人から笑い声があがった。

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