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第三章〜①〜

7月25日(日) 天候・晴れ


 ついに、ついに、クラスメートたちと、夏のレジャーに出かける日がやってきた!

 目的地であるアミューズメント・プールは、沖合の人工島の中にあり、入場料金も中高生900円と良心的な価格設定だ。自分たちの住む街からは、JRと新交通システムを乗り継いで行くことになる。

 午前九時の開園に合わせて到着できるように計画したオレたちは、自宅からの最寄り駅に、午前八時に集合することにしていた。

 集合時間の十分前に駅の改札口に到着すると、すでに、悪友二名は待ち合わせ場所にあらわれていた。


「オッス、ナツキ! 夏バテでくたばってなかったか!?」


 こちらに気付いた康之が、声を掛けてきた。朝イチの挨拶としては、甚だ問題のある内容ではあるが、弾けるような笑顔から、今日の一大イベントに対する期待感が伝わってくる。

 その隣に立つ哲夫からも、


「おはよう、ナツキ! 元気そうで安心したぞ!」


と、声が掛かる。

 こちらは、運動部員らしく日焼けした腕と脚をたくましく見せ、いかにも夏のレジャーを楽しむ高校生らしさにあふれている。


「二人とも、体調もテンションも万全みたいだな。朝から暑苦しさ全開だ」


 普通に挨拶をしてくれた哲夫には申し訳ないが、康之とひとまとめで皮肉を交えて応答すると、


「「今日のために、色々と準備をしてきたからな!!」」


と、二人は声を揃えて、返答してきた。

 こちらの毒を含んだ発言を余裕で交わす言動からも、康之と哲夫の上機嫌ぶりが見受けられる。

 夏休み前と変わらない友人たちの様子に、安心していると、


「おっはよ〜、男子〜!」


と言う元気な声が聞こえてきた。

 声のした方を振り向くと、その快活な声の主である大嶋裕美子、その両隣に中嶋由香と小嶋夏海の姿が見える。

 三人の真ん中で、一番背が低いにも関わらず、声と存在感は大きい大嶋は、ダイダイ柄のアロハテイストのシャツで、華やかな夏っぽさを感じさせてくれている。


「おっ! 大嶋、今日も、元気そうだな~」


 オレに声を掛けた時とは、三段階くらい上のトーンで、哲夫が応じる。

 声を掛けられた大嶋の左隣では、サークルクロスニットのトップスとデニムショートパンツというビーチスタイルの中嶋が軽く手を挙げている。

 胸元に、サングラスを掛けた同じ十代とは思えない、その着こなしは、自分の容姿とスタイルに自信がないと出来ないのではないだろうか? このまま、ビーチやプールサイドに出ても違和感がないくらいの印象で、オレの隣で呆けたような視線を送る康之でなくても、彼女に見惚れてしまうだろう。

 同じ男子として、その気持ちは、わからないでもない。

 いつものノリと違い、すぐに声を出せないほど一点を見つめている康之に苦笑しつつ、オレは三人の右端を歩いている『時のコカリナ』の共同研究者に目を向けた。

 今日の彼女は、薄手のパーカーを羽織り、先日と同じ、丈の短いジーパンを着まわしていた。

 他の二人に比べると大人しめの印象だが、小嶋夏海らしい、さわやかなスタイルだと感じる。


「三人とも遅刻せずに来たんだね〜。感心感心」


 うなずきながら言う大嶋の言葉に、「「当然だ!!」」と、またも、康之と哲夫が声を揃える。


「なにせ、康之は、一時間も前から、ここで待っていたらしいからな!」


 体育会系らしく豪快で朗らかな笑い声で告げる哲夫の一言に、


「おい、バラすなよ、哲夫! おまえだって、集合時間より三十分以上早く、ココに来てたじゃねぇか!?」


と、康之は友人を自分の側に引きずり込もうとしている。


「うわ〜、それ、普通に引くんだけど――――――」


 苦笑いしながら、声をあげた中嶋に「なんだよ〜。イイじゃね〜か」と、康之が反論を試みていた。

 そんな四人の様子を眺めながら、小嶋夏海が、こちらに声を掛けてくる。


「おはよう、坂井! 昨日は、よく眠れた? 今日のことが楽しみ過ぎて寝不足になってるんじゃないかって、心配したけど……」


 オレにとっては、馴染み深いモノになってきている悪戯っぽい笑顔で告げる彼女に、


「心配りには感謝するが、心配ご無用!昨日は早めに寝たから睡眠時間は、バッチリだ!」


と、答える。

 実際に、昨夜は、日課のソシャゲの周回を早めに切り上げて、ベッドに入った。


「そう、それは良かった。じゃあ、準備も万全で、当然()()()なんてしてないよね?」


 あえて、強調する言い方をしているということは、『時のコカリナ』のことを指しているのだろう。

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