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第一章〜⑪〜

==========Time Out==========


 手元にある、坂井の首から外れた木製のオブジェ(?)を観察した後、小さなスイッチを何度か切り替えると、彼が、息を吹き込もうとした時と同じように、周りの風景が一時停止の画面のように静止した。

 微風にたなびいていたカーテンが、少し膨らんだままの状態で止まっている。

 そして、目の前に立つ坂井夏生も、また、コチラ側に手を伸ばそうとした状態で動きを止めていた。


「なに!? これ!? いったい、どうなってるの!?」


 軽くパニック状態になった私は、目を開いたままの坂井の前で、手をヒラヒラと動かしてみるものの、彼の瞼を含めて全身は微動だにしない。


「いったい、なんなの!?」


 急に、この場所にいることが怖くなって、急いで自分の席から通学カバンを掴み取って、教室を飛び出す。

 三階の廊下には、他の生徒は見当たらなかったが、一階に向かう階段では、何人かの生徒を追い抜いた。

 階段を駆け下りながら、チラリと彼らの様子をうかがう。


——————それでも、やはり男子生徒も女子生徒も、まるで、時が止まったように、動きを止めたままだ。


 一階の昇降口では、数十人の生徒が蝋人形のように固まったままで、様々な表情を見せているが、見慣れたクラスメートや同級生の顔も不気味に感じてしまう。

 その光景に、不安で押しつぶされそうになりながら、逃げるように下駄箱で通学靴のパンプスに履き替え、私は、昇降口から駆け出した……。


=========Time Out End=========


 放課後の教室で、小嶋夏海に奪い取られた祖父さんから授けられた木製細工を奪い返そうと手を伸ばした瞬間、気が付くと、彼女は、オレの目の前から消えていた。


「なっ!? 小嶋! どこだ!?」


 声をあげ、教室内を見渡すが、彼女の姿は見えない。


(まさか……)


 手元に木製細工はなく、小嶋夏海が持ち去ったと考えるべきだろう。


 そして——————。


 オレの記憶がある瞬間まで、彼女が木製細工の吹き口から息を吹き込んだ様子は見られなかったが、何らかの手順を踏んで、時間停止機能を発動させてしまったようである。

 停止時間の長さが、自分の知る六十秒程度だったと仮定して、今から全力で追い掛けても、彼女は、生徒昇降口の付近にいるだろうし、周りには帰宅の準備をしたり、部活動にむかう生徒が大勢いるだろう。

 そんな場所で、また時間停止機能を発動されたら、その機能の解除後に、どんなトラブルが待っているかわからない。

 さらに、小嶋夏海の自宅の場所や連絡先を知らないオレにとっては、成す術がなかった。

 その現実を確認すると、一人、取り残された放課後の教室で呆然とたたずむより他にない。


「どうしよう……」


 周りには誰もいないことを理解しつつ、そんな独り言が、ため息のように出てしまう。

 肩を落としたオレは、当初の目的だった『進路希望調査書』のプリントを自分の机の中から取り出して、通学カバンに収納し、重い足取りで帰宅することになった。

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