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第四章〜㉙〜

 すぐに、通話アプリを起動して、小嶋夏海あてにコールを送るが、応答はないーーーーーー。

 次に、メッセージアプリで、いくつかスタンプを送るが、既読はつかない。

 バスの車内なので、スマホを触るのを止めたのかも知れないが、通話にもスタンプにも反応がないということは、先ほどまでのメッセージの送信直後に、ブロックをされてしまった可能性を否めない。


(小嶋なら、やりかねないよなぁ……)


と、考えながら、ベンチから腰を上げる。


(さて、どうしたものか……)


 こっちの話しを聞くことは、勝手に切り上げたくせに、自分の要望ばかりを並べたメッセージに、大いに憤りを感じたもののーーーーーー。


『ナツミって、男子からしたら、面倒くさい性格じゃない? 遠慮なく、ズケズケと自分の言いたいことを言うかと思えば、自分が想っていることとは、正反対のことを言うこともあるし……』


 貴重なアドバイスをしてくれた同級生女子が、週末の通話アプリでの会話で、語った小嶋夏海評を思い出し、


(なんだ、中嶋の言うとおりじゃないか……)


と、思わず笑みがこぼれる。


(であれば、この小嶋夏海の要望が並べられたメッセージも……)


 ただ、自分だけの独りよがりの考え方になってしまうことは危険だーーーーーー。

 そう思い直しつつ、自分には頼りになる二人の女子のクラスメートが居ることを心強く感じながら、彼女たちへの相談内容を頭の中で考え始めた。

 そしてーーーーーー。


(それなら、自分が出来る限り小嶋の要望を叶えるとしますか)


そう決断してから、悪友にメッセージを打つ。


==============


小嶋との話し合いは終わった


ちょっと寄る所があるので、

用事が終わってから学校に戻る


==============


 スマホの画面には、すぐに既読のマークが付き、


==============


了解!


みんなで、ナツキが

戻って来るのを待ってる!


==============


と、返信が返ってきた。


==============


しのびねぇな

(みんなに伝えておいてくれ)


==============


==============


構わんよ!

(これはオレたち全員の総意だ)


==============


 メッセージを確認し、オレは、駅から続く道を西へと進路を取った。



 駅前のバス停から、熱中症にならない程度に軽めの早足で歩くこと二十分ーーーーーー。

 オレは、自分たちの元を去った同級生の依頼を果たすべく、彼女の家の前にある公園に立っていた。


『私のことは忘れて下さいーーーーーー』


という彼女の願いがありながら、この場所を訪れることに、我ながら未練がましさを感じたが、これも、その本人の願いを叶えるためなのだから、仕方がない。

 そんな矛盾を感じつつも、先月、無理やり《実験》に付き合ってもらった、キジトラ模様の猫を探す。

 今日は、太陽が雲に隠れているとは言え、まだまだ蒸し暑さの残る昼間である。

 夜行性という猫の習性を考えると、日が暮れてから、あらためて出直すべきかーーーーーーなどと、藤棚のそばの公園の入り口に立って考えていると、足元から


ミャ~~~~


と、声がした。

 鳴き声にひかれて視線をうつすと、あのキジトラ猫が、足元にすり寄って来ていた。

 しゃがみ込んで、キジトラに目線を合わすと、相手も


マァ~~~~~


と、挨拶するかのように声をあげたあと、スリスリと頭部をオレの足元に擦りつけてきた。

 猫が、ヒトやモノに頭部を擦りつけるのは、自分のニオイを付けて、マーキングしているのだ、ということを聞いたことがあるがーーーーーー。

 どうやら、この公園を住処にする気ままな存在は、自分のことを受け入れてくれているようだ。


「おぉ~、覚えていてくれたか~」


 野良猫相手に、言葉が伝わるなどとは考えていないが、声を掛けながら頭を撫でると、キジトラは、ゴロンと腹を見せながら半回転し、背中を撫でろ、と要求してくる。

 そのリクエストに応え、ソフトなタッチで背中をさすってやると、《時のコカリナ》の実験を行った日と同じように、


ゴロゴロ〜


と、キジトラは気持ちよさそうに喉を鳴らし始めた。


「今日も撫でさせてくれて、アリガトな〜。実験のパートナーからのお達しだからな。これからも、ちょくちょく様子を見に来ていいか?」


 そうたずねると、言葉の意味を理解してくれたのか、すっかり愛想が良くなった縞模様は、


マァ~~~~~


と、返事を返してくれた。


「コイツの不思議な能力の影響かも知れんが……あの一度きりの実験で、良く手なづけたもんだな……でも、急に居なくなるなんて、ヒドい相棒だよな……」


 胸ポケットの木製細工を意識しつつ、愛くるしい姿をさらすキジトラに、苦笑しながら、一人言をつぶやくと、あの実験の日と同じように、悪友・岡村康之と交わした、アミューズメント・プールでの会話の記憶がよみがえってきた。


「時間停止している最中に蓄積された快感が、停止解除された途端に()()()()襲ってくる現象は、実際にあり得るのか?」


 その言葉に、思わず、マスクの上から唇に触れる。

 つい、数十分前に、小島夏海の姿が消えたことに気付いた瞬間に、このマスクの裏に感じた強烈な感触の、その正体はーーーーーー。


(ま、まさか…………!?)


 そこまで想像して、身体全体が火照るのを感じ、猫を撫でる手が止まる。

 それに気付いたのか、撫でられることに飽きたのか、キジトラは立ち上がると、一度、前脚を伸ばして身体を反らしたあと、スタスタと優雅に、オレの足元から去って行った。


「オレも、あいつと同じだってことか……!?」


無意識に、言葉を発しながら、


「ったく! なにが、『私のことは忘れてください』だ…」


ポツリと、つぶやく。

 申し訳ないが、夏休み限定の実験パートナーの依頼をすべて叶えてやることは出来なさそうだ……。

 是が非でも、もう一度、彼女に出会って確かめないといけないことがある。


(そのためには……)


 夏休み前に提出した『進路希望調査表』を思い出し、担任教師に、これから、志望校を変更することが可能かどうかを確認しなければならないーーーーーー。

 それは、入学してからこれまでの約一年半を無為に過ごして来た自分自身に、初めて明確な目標が出来たことを感じた瞬間でもあった。

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