表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

第9話 スキルの代償

 金ぴか親父……もとい、黄金の鎧に身を包んだ親父は植物魔術で拘束されたロズワルドや外套の連中を見て全ての状況を察したようだ。


 俺の傍によって来ると、俺の頭に手を置いて抱き寄せた。


「よくやった、涼一郎」


「お、おう……」


 今なら避けることも抵抗することも容易かったはずなのに、なぜかそのまま受け入れてしまう。親父にこうやって褒められるの、小学校の頃以来だな……。


 つーか鎧が当たってけっこう痛ぇんだよ。痛覚遮断スキル切ってるからだけど。


「ユリアも、無事で何よりだ」


「あ、あの……」


 親父は空いた方の手でユリアも抱き寄せた。


 ユリアは目を丸くして驚いている。けれど、俺と同じく抵抗はしなかった。


「ユリア! 涼一郎っ!」


 と、袋小路の入口からソフィアさんまで姿を見せた。後ろには大勢の兵士たちが居て、俺たちを見てホッとした表情を浮かべてくれている。


「総一郎、二人は⁉」


「この通り無事だ、ソフィア」


「お、お母さ――わぷっ⁉」


 ソフィアさんは飛びつくようにユリアを抱きしめる。


「心配したのよ、ユリア! よかった、本当に無事でよかった!」


「……はい。おにいちゃんが、守ってくれました」


 ユリアは少し頬を染めて、穏やかな笑みを浮かべている。


 いや、守られたのは俺の方だろ。ユリアがかばってくれていなかったら、スキルすら発動できずにそのまま死んでたかもしれない。


 ユリアは間違いなく俺の命の恩人だ。


 それはそうと、いつの間にか「おにいちゃん」呼びだな。怪我をしている最中も、ずっと譫言のように「おにいちゃん」と俺を呼び続けていた。


 嬉しいような、気恥ずかしいような。


「そういえば親父、どうしてここがわかったんだ?」


「涼一郎を事前にパーティー登録しておいた。そうすれば離れていてもHPの減少や異常状態がわかるからな。だが、驚いたぞ。まさかパーティー状態が解除されるとは」


「あー……」


 たぶん、〈暗黒の檻〉のせいだな。外部との森羅万象の接続を妨害する魔術だ。おそらくパーティー登録も強制的に解除されたんだろう。


 つーか、パーティー登録なんてそんなゲームみたいなシステムまであるのかよ。


「帰りも遅くて心配していた。そしたらパーティー登録が切れたものだから、涼一郎とユリアに何かあったに違いないとソフィアや騎士団の者たちと慌てて探しに来たんだ」


「なるほど、それでこんな大所帯なのか……」


 裏路地に入りきらない兵士たちが遠巻きにこっちの様子を見ている。中には困惑した表情を浮かべる者たちもいた。自分たちの騎士団長が拘束されているんだ。事情は今すぐに知りたいだろうな。


「涼一郎」


 事の成り行きを親父に説明しようとしたら、ソフィアさんが話しかけてきた。


「ありがとう、涼一郎。ユリアを守ってくれたそうね」


「いや、守られたのは俺の方……で…………」


――スキル効果持続時間0秒。


このタイミングでスキルの効果が切れた。


 直後、


「あ、れ……?」


 俺はその場に立っていることができなくなり、前のめりに倒れこんでしまう。


 なんだ、これ。力がまったく入らねぇ……。


 足腰で身体が支えられない。そのまま倒れた俺は、ソフィアさんに受け止められた。


 いや、正確にはソフィアさんの胸に受け止められた。


 やわらかい、マシュマロのような感触に包まれる。なんだろう、この温もりは。これが母親の温かさなんだろうか。すごく……落ち着くな…………。


「あらまあ、涼一郎ったら。ふふふっ」


「涼一郎、お前まさか母さんを⁉」


 ちげーよ。


「涼一郎もやっぱり男の子ね」


 だからちげーって。こちとらまったく動けねーんだよ!


 ソフィアさんの胸から離れたいのに身動きが取れない。そんな俺の胴に手を回して、誰かが俺をソフィアさんから引きはがした。


 後頭部に感じる確かな弾力。銀色の髪が俺の肩にかかり、石鹸のような優しい香りが鼻孔をくすぐる。これ、ユリアか……?


「あらあら、ユリアちゃんったら。ふぅーん、へぇー……」


「はっはっは! 随分と仲良くなったようだな、二人とも」


 ソフィアさんと親父はユリアに後ろから抱きしめられた俺を見て笑っている。笑い事じゃねぇっての。


 ユリアも俺がソフィアさんの胸にくっついていることが気に入らなかったんだろう。顔は見えねぇけど、たぶん母親を取られたと思って怒ってるだろうなぁ……。


 許してくれ、ユリア。完全に不可抗力っつーか、マジで動けん。


「親父、体に力が入んねぇ」


「ふむ。もしかするとスキルの代償かもしれんな。涼一郎、ステータスと口に出してみろ」


「ステータス?」


 俺が言葉に出すと、目の前に半透明の空中ディスプレイのようなものが現れた。


 もしかして、リビングで親父が虚空を手でなぞってたのってこれを見てたのか。


「涼一郎、ステータスの数値はどうなっている?」


「えーっと……。全部1だな」


 HPとMPを含む全ての数値が1になっていた。


 HP1ってこれ、そこらの石ころに躓いて転んでも死ぬんじゃねーか……?


 スペラ〇カーかよ。


「何かログは表示されていないか?」


「ログ? えっと……」


 あれか、俺がスキルを発動させたときに視界の隅に流れてきたやつ。


 ステータス画面の端にも何か文字が表示されている。


 ――スキル効果持続時間0秒。


 ――以下の効果を取得。


【HP&MP含む全ステータス最低値】

【状態異常耐性最低値】

【物理攻撃弱点】

【魔術攻撃弱点】

【全スキル発動不可】

【全魔術発動不可】


 ――効果持続時間10739秒。


「…………俺、死ぬかもしれん」


 10739秒って何時間だよ…………。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=831437633&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ