▼すき、きらい。
「るしうす、なぜ、ここにいるの」
「あねさまのとなりには、るぅしぃがいるのよ!」
えへん、と胸を張る幼児がひとり。広いベットの端からこちらへえっちらおっちら登り始めている。きっと落ちる、落ちた。
「あねざまぁぁあああぁあ〜!!!」
ここは貴族の屋敷。
下には毛足の長いカーペットがあるのだ、落ちた高さもたかが知れている。泣き声は無視だ。
今はこのようなちんちくりんだが、将来は騎士。警戒すべきだろう。そう思って改めてちんちくりんを観察するが、このちんちくりんはまずもって、好んでこの私の傍にいると思って間違いない。なので、このちんちくりんは、好きで泣き叫んでいるわけで、それを近い未来に恨まれる要素が見当たらないのだ。
「るしうす、だまりなさい」
「ぁい、あねざま…」
紅葉のような小さな手を同じく小さな掌で包んでベッドに引っ張りあげてやる。えへへ、とさっき泣いたカラスがもう笑っている。
「るしうす、あなた、わたしがにくい?」
にくい…?と左へ大きく体ごと倒して疑問を訴える下僕に「きらいなの?」と聞くと、
「るぅしぃは、あねさまが、すち…」
とモジモジしながらこちらをチラ見して「あねさまも、るぅしぃ、すち?」と感情の忙しない動作を繰り広げるので、やはり現時点ではトラウマを作っていないと考えられる。
だとするならば、これからトラウマを作らない円満な関係作りをしていけばいい。でははじめに。
「わたしは、るしうすが、きらいじゃない」