▼てんしまじてんし。
僕の一番古い記憶は、天使が僕を抱きしめながら微笑んでいる場面だ。
その鮮烈な記憶は10年以上経った今でも鮮やかでいて耀いている。
天使はキラキラと煌めきながら現れ、僕に優しく微笑みかけながら抱き締めてくれた。
後光が差し、慈愛でもってかいなにおさめてくれる姿を天使以外になんと表現すればいいのか、知っている人がいるなら教えて欲しいぐらいだ。
とにかく僕は、あまりの出来事に何も言えず、ただただ、その腕の中の居心地の良さに泣きそうになっていた。
覚えているのはそれだけ。
だが、両親や使用人たちが語る思い出話によると、その天使に僕は命を救われたらしいのだ。
天使は。アリシアちゃんは、暴漢に襲われる僕を救うために道無き道を踏み越えて僕を救うため命を投げ出して幼いながらに駆けつけ、自分を後回しにして僕を健気に慰め続け、行き届かなかった執事を責めるどころか庇ってアリシアちゃんにつける護衛も暫くは断って体裁が整うようにしたと。
なんというてんしっ!
屋敷の人間はみんなアリシアちゃんに甘いが、アリシアちゃんが人類に甘過ぎるので屋敷の人間くらいアリシアちゃんを甘やかしたところでなんの問題もないのである。
アリシアちゃんの我儘は基本的にひとのためである事が多く、自分のためにはあまりに無頓着であるので、僕はアリシアちゃんのために我儘をいうと決めている。だが、アリシアちゃんの我儘には敵わないので、僕がそれを飲むことも多くて、結果としてアリシアちゃんより僕のためになっている事はお察しだ。
てんしじちょうしてっ!
「ねぇ、アリシアちゃん。そろそろ中に入ろうよぉ。日焼けしちゃうよ?」
アリシアちゃんの綺麗な肌理の細かい肌が荒れてしまうだなんて大問題だ。
噴水の傍に愛読書を広げて帽子も被らないアリシアちゃんは、太陽の光を受けてキラキラと耀いて見える。
「アレクシスは成長期なのだから、もう少し外にいましょう。」
いわく、ビタミンDは日光でしか取れないし、身長はもう少しあった方がいいでしょう。だなんて…
僕がアリシアちゃんの隣を離れないことを分かった上での発言ごちそうさまですっ!
そうなの、もうちょっと身長あったらアリシアちゃんにちょっかい出してくる馬鹿を威圧できるなって思ってたの!
はぁ、自分の肌が荒れちゃうかもしれない危険を冒してまで僕のことを考えてくれるアリシアちゃんまじてんしっ!
お昼休みが終わるまであと少し。
学年が違うから授業中まで同じクラスにいられないのは、今は辛いけど来年には飛び級予定だし。
あと数時間したらまた一緒に帰れる。その時まで我慢できるように、そっとアリシアちゃんの肩に身を寄せ深呼吸した。
同じクラスのくせに話しかけられないような馬鹿な婚約者の視線を感じながら。




