武闘会に出場①
「ふぅ。何とか武闘会までに王都についたわね」
私は王都の門を入ったところで軽く息を吐く。
道中、立ち寄った村で魔物討伐の依頼を引き受けていたので、王都に着くのがギリギリになってしまった。
それがなければ後数日は早くつけたはずだ。
レインに鍛えてもらっておいてよかった!
おかげで予想より移動時間は短くできた。
「ほんと危なかったわ」
さっき通ってきた門では門兵たちが閉める準備をしている。
もう夕方で、あと少し遅ければ閉門時間に間に合わなくなるところだった。
最後の2、3日は『身体強化』の魔術も使って全力で走ってきた甲斐があるという物だ。
「今日中に受付をしないといけないよのね」
受付は王城の側の闘技場で行われているらしい。
私は王都の中央に聳え立つ王城に向かってゆっくりと歩きだした。
***
「あの。すみません。武闘会の受付はこちらでよかったでしょうか?」
「はい。こちらで問題ありません」
私は闘技場の外にある小さな受付で受付の女性に話しかけた。
所作が綺麗なのでどこかのメイドか何かだろう。
闘技場の外には簡易テントが立っており、そこに「受付」の看板があった。
闘技場の外での受付は伝統なのだそうだ。
まあ、実際は辺境の小さな貴族家を普段自分たちが使う場所に入れたくないがために準備した受付で、中央に居を構える大きな貴族は家から出場の意思を表明するので、こんな受付にはこないらしい。
貴族に会うこともないので私としては助かる。
「紹介状をお見せください」
「はい」
私は紹介状を受付の女性に渡す。
女性は紹介状を確認し、何かの魔術を使う。
おそらく、無属性の魔術だと思うが、呪文が聞こえなかったので、何の魔術かはわからなかった。
「間違いありませんね。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「……アリアです」
紹介状にはファーストネームしかかれていない。
これは、伝統でこの武闘会で立派に戦うことでやっと貴族として認められるための措置らしい。
まあ、実際は受付で家名が聞かれてそれで対戦相手が組まれるのだそうだ。
「……家名は、名乗ることを許されていません」
私がそういうと、受付の女性の態度があからさまに変わる。
「いるのよね。こういう勘違いが。これは貴族のための大会なんですよ。貴族じゃなくなった人間はお呼びじゃないのよ」
「な!?」
私は一瞬激昂しそうになったが、スイとリノの顔を思い出す。
ここで私が怒ってこの大会に参加できなければ、彼女たちが不利な立場におかれるのだ。
「……招待状が本物である以上、参加はできるはずですよね」
「えぇ。私としても、娯楽がなくなるのは惜しいからね」
「娯楽?」
私がそう聞くと、受付の女性はいやらしく笑う。
「こういう勘違い女を貴族の高貴な方が粛清する娯楽よ。泣き叫んで、許しを乞う様はいつも滑稽なの」
「な!? 降参が認められてるはずでしょ?」
「降参が審判に届けば降参しても良いのよ? 審判に届けば、ね。でも、勘違い女の声がちゃんと審判に届くかしら? 最初の方の対戦は陛下もご覧になっていらっしゃらないしね」
「!?」
そんな話聞いていない!
最初の戦闘が始まったら直ぐに降参するつもりだったのに!
私が受付の女性の話に硬直していると、受付の女性は私の手から招待状をさっと取り上げる。
「私、運がいいわ。大会は賭けもやっているの。でも、片方が降参してしまうと無効試合になってしまうのよ。降参した貴族様に悪いからね。でもあなたは違う。貴族崩れと貴族の対戦は倍率が偏りがちだけど、今からならそこまで偏らないはずだわ。貯金を全部掛ければ飲み会一回分くらいにはなるでしょ」
「あ、ちょっと」
受付の女性は手早く受付を済ませる。
直後、鐘の音が聞こえてきた。
おそらく王城の時計塔の鐘の音だろう。
「はーい。受付終わりました。今日はこれでおしまいだから早く出て行って」
「ちょ、ちょっと待って!」
「面倒ね。衛兵さん。この貴族崩れを早く連れ出して!」
入り口の近くに立っていた衛兵が近づいてくる。
あんな強そうな男たちに何かされるのは嫌。
「……帰ります」
「大人しくそうしていればいいのよ」
受付の女性は満足そうに笑う。
私が大人しく引いたのを見て、衛兵の人も下がっていく。
「あぁ。逃げようったってダメよ?門衛は通してくれないし、高貴な大会を穢した者として、死罪になるんだからね」
「……分かってます」
受付の女性はテントから出ていく私の背中に声をかけてくる。
その声には隠しきれない喜色が含まれていた。
***
「どうしよう……」
私は城壁近くの安宿に入り、ベッドに倒れていた。
まさか、棄権すらできないとは思っていなかった。
今まで武闘会はちゃんと見たことがなかった。
兄様の決勝戦は見に行ったことがあるが、下位貴族や貴族崩れが戦う初日は一度もいたことがない。
こんなことになっているとは思ってもいなかった。
貴族で無くなったものも、無様に戦って死んだという話を聞いていたから、ずっと棄権すればいいのにと思っていた。
だが、彼らも私と同じで棄権できずに嬲り殺されたに違いない。
こんなことなら一度くらい見に行っておけばよかった。
そういえば、武闘会を観に行った兄様たちは興奮した様子でその様を話していた。
人を嬲り殺すのを娯楽にするなんて。
貴族がここまで腐っているとは思わなかった。
「何とか、勝たないと……」
私はよろよろと立ち上がって武器の手入れを始めた。
魔物を倒したときについた血や肉がこびりついている。
持ってきた布で丁寧に剣の汚れを取る。
だが、すべてを拭いとることはできないし、よく見れば小さな傷がたくさんある。
「キーリ……」
キーリがやるように綺麗には直せない。
「痛っ!」
誤って指先を浅く切ってしまう。
傷口を口に含んで血が止まるのを待つ。
私はミーリアと違って回復魔法を使えないので傷を治すことはできないのだ。
「ミーリア、リノ、スイ……」
手を止めるとみんなの顔が順々に浮かんでくる。
「死にたくないよ。レイン」
私は涙を流しながら剣の手入れを続けた。
昨日は寝落ちしてしまって感想返信がまだできていません。
申し訳ありません。
今日の夜にまとめて返信します。
今日も二話投稿します。
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