その日のうちに追放
(うん。我ながらひどい扱いだな)
ちょっと思い出してみたが、なかなかひどい扱いだ。
ちょうどそのとき、伯爵が俺を蹴るのをやめる。
「はぁ。はぁ。お前など私の子供ではない! もう顔も見たくない! どこへなりとも行ってしまえ!! ルナンフォルシードの名を名乗ることは許さん!!」
数分間けり続けた後、はぁはぁと息切れしながら伯爵は俺にルナンフォルシード伯爵家からの追放を言い渡した。
そして伯爵は部屋から出て行った。
伯爵が出て行ったことを確認して俺は立ち上がった。
特に青あざとかにはなっていなかったが服は破れてもう着られない状態になっている。
今日、辺境貴族じゃなくなって、その日のうちに貴族ですらなくなってしまった。
まあ、別に貴族に未練はないし全く問題ないんだが。
今までも名ばかり貴族だったし。
「……あれ? もしかして俺って今、無職?」
今までは辺境貴族という名のハンターみたいな仕事をしていたが、その仕事は仕事自体がなくなってしまい、貴族としての仕事が来るかと思えばその貴族ですらなくなってしまった。
「……まあ、いっか」
無職になっても別にいいだろ。
今までの仕事だって母さんがやってた仕事をそのまま引き継いだだけだ。
「このままどっかに行くかな」
母さんとの思い出の品だって全部俺の【収納】の中に入ってる。
ルナンフォルシード伯爵には二度と顔も見たくないといわれたしこの国では働きにくいだろう。
だったらいっそのこと遠くの国に行ってしまうのも一つの手だろう。
幸い、俺には力がある。
そんじょそこらの奴には負ける気がしない。
「そうと決まれば出発しますか」
俺はそのまま部屋を出て周りの使用人に何事かと言う顔で見られながら王宮の外に出て、王都民に「なんだ? 喧嘩か?」といった感じの白い目で見られながら王都から出た。
来たときは馬車だったから見られなかったが、王都の外には広大な草原が広がっていた。
「さて、これからどこへ行こうかな」
俺は草原に伸びた一本道を歩きながらこれからのことを考えた。
***
ゆっくりと進んできて王都が遠目に見えるあたりまでやってきた。
この辺まできたらいいだろう。
いつもは身体強化の魔術を使って走り回っているが、王都周辺では魔術の使用は禁止だ。
王都内はいろいろな魔道具で快適に過ごせるようになっており、攻撃用魔術具などで武装した治安部隊がいるらしい。
そして、魔術を感知する魔道具がそこかしこに仕掛けられていて、魔術を使えば治安部隊が飛んできてしまうのだとか。
外に魔力が出ないような弱めの身体強化であれば無意識に使ってしまうものもいるし、魔道具も反応しないので大きな問題にならないが、高速で走るために強い身体強化をかけてしまえば王都の外であろうと魔道具が反応して治安部隊が飛んできてしまう。
だから、王都からある程度離れるまでゆっくりと歩いてきたのだ。
それに、実は前々からやってみたかったこともあったのだ。
魔術が使えるようになれば誰もがやってみようと試みること。
そう。「そらをとぶ」だ。
辺境貴族の時は失敗したら周りに迷惑をかけるので実験的な魔術はおとなしいものしか試せなかった。
特に移動魔術系はどっか知らないところに行っちゃって帰れなくなればかなり大変だ。
だが、今は根無し草。
帰れなくなったとしてもそこまで問題はない。
【収納】の中には数日分の食料も入っている。
「じゃあ、いっちょ試してみますか」
俺は人類の夢といってもいい飛行実験を始めたのだった。
***
空を飛ぶ。
昔から人類が夢見ることの一つに数えられる。
現代日本ではいろいろな方法でそれは実現されている。
例えば、飛行船。
これは、『空気よりも軽い気体』を使って水の中を気泡が浮かぶかのように空中を浮かんで空を飛んでいる。
例えば、飛行機。
これは翼を使って前進する力を上昇する力へと変換することで空中を飛んでいる。
例えば、ロケット。
これは下方で爆発を起こし、下方へと噴射することでその反作用で空を飛んでいる。
このように空を飛ぶためにはいろいろな方法があるが、俺が今一番やりやすいのは三つ目のロケットと同じようなやり方だろう。
ロケットというよりはアメコミに出てくる鉄男の方が近い気がするが、要は下から上に向けて風の力で浮かせてしまえばとりあえず飛ぶことができるんじゃね?という少し乱暴なやり方だ。
そして、俺はそれに最適な魔術を一つ知っている。
さっき国王に使えるか聞かれた『風大槌もどき』だ。
この魔術自体を俺は使うことができないが、『風刃』を使って再現することはできる。
というか、自分に向けて発動しないといけないうえ、長時間連続して使い続ける必要があるので、『風大槌もどき』の魔術では飛行することはできないだろう。
「まあ、とりあえずやってみますか」
原理は簡単だし、やってみるだけならすぐにでもできる。
とりあえず、『頑強』を自分にかける。
これは体を強くする魔術で、何か起こった時に生き残れる可能性が高くなるだろう。
ついでに『風除け』もかけておこう。
『風大槌もどき』の魔術が強すぎた場合でも、これをかけとけば大ダメージは避けられるだろう。
この『風除け』は空気抵抗を減らして相手の風系の攻撃をそらす効果があるらしいが、攻撃の圧力だけは感じるので、今回の実験には最適と思う。
「とりあえず、10秒くらいでやってみるか」
俺は準備も整ったので『風大槌もどき』の魔術の準備を始めた。
先端はできるだけ平らにして、効果時間は10秒になるように魔術を調整する。
「よし。準備完了。3、2、1。ゴーぉぉぉぉぉぉぉ」
もしもこの時、近くで見ている者が居れば、星になった俺の姿を見ることになったと思う。
俺は『風大槌もどき』を発動した瞬間、ものすごいスピードで彼方へと飛ばされてしまった。
誤字報告いただきました、ありがとうございます。
これで第一章は終わりです。
二章から異国での開拓民生活が始まります。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。
このあと、今日中に閑話を二話挟む予定です。
一つがレインがいなくなった後の神聖ユーフォレシローリウム人民聖王国の話でもう一つが古代魔術師文明の歴史です。
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作者がやる気になります。