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対魔貴族の生活はどうみてもブラック②

「引っ越すならこの商品はどうするの?」


 ジルおじさんの本屋にはかなりたくさんの本がある。

 だが、ジルおじさんの本屋で俺以外の客を見たことがない。


 本なんて買う客はこの前線近くにはいないからだ。

 ジルおじさん自身も、本の売り上げより周りの店の経理の手伝いで稼いでいるみたいなことを前に言っていたし。


「あぁ。店は十日後までに出ていくと商業ギルドに連絡してるから、二、三日で売れなかったら全部燃やしちまうしかねぇな。まあ、お前以外の客は年に数人しか来ねぇから今ある分は全部燃やしちまうことになるだろう」


 ジルおじさんは残念そうにそういう。


 こんな場所で大して売れもしない本を売っているくらいなのだ。

 本が好きなのだろう。


 だが、大量の本をもって隣国に行くなんてまず無理だ。

 関税もあるし、関所で中身が改められるだろう。

 最悪、隣国の王都につくのが数年後とかになりかねない。


 ……さすがにそこまではないか。


「じゃあ、残りの本は全部俺が買い取るよ」


 俺は懐から数十枚の銀貨を出した。

 これは今までジルおじさんの店で買った分のあまりだ。


 毎回銀貨十枚ピッタリ使うわけじゃなかったので、気付けば結構な額がたまっていた。


 俺が取り出したお金を見てジルおじさんは目を見張る。


「いいのか?」

「別にいいよ。俺は引っ越す予定ないし。十日後までに本をすべて運び出せばいいんでしょ?」


 ここには千冊くらいの本があるが普通の本であればそれくらい買っても足りるだろう。

 それにどうせ捨てるんだったら少しくらいは負けてくれるんじゃないかという思いもある。


「恩に着る。しっかし、お前、いつも全財産を持ち歩いてるのか?」

「……家は誰もいなくなるからね。持ち歩いているほうが安全なんだよ」

「……そうか」


 ジルおじさんは少し納得がいかないような顔をしていたが、それ以上質問はしてこなかった。

 実は、俺はすべての荷物をいつも持ち歩いている。


 というのも、だいぶ前に空間魔術が使えるようになって亜空間になんでもしまえるようになっていたからだ。


 本なんかは今住んでいるところに置いておくとどうしても劣化をしてしまう。

 食材なんかもそうだ。


 だが、亜空間に入れておけば劣化することもないのだ。

 重さも感じず、劣化することもないのだから、わざわざ劣化する家の中に置いておく理由は全くないということだ。


 まあ、公開するといろいろ便利に使われそうだから誰にも話していないことなのだが……。


「じゃあ、十日後までに全部運びだすことにするよ。ジルおじさんはどうするの?」

「そうだな。商品は全部売れちまったし、今日中にもう出ちまうかな。金持ってると危なそうだし」


 たしかに、俺が店の本を運び出してればこの本が全部売れたとわかるものもいるだろう。

 当然売上金をジルおじさんが持っていると思うわけで、そうなれば、悪いことを考えるものも出てくるかもしれない。


「じゃあ、せっかくだし荷づくりを手伝うよ。いつも王都に行く準備と大して変わらないんだろ?」


 ジルおじさんは俺が商品を買うとその金をもっていつも仕入れに出かけているので、いつも旅の準備は手伝っている。

 どうせお金以外は何も持って行かないんだろうし、準備の内容はいつもと一緒だろう。


 そのお金も商業ギルドに預けることになるだろうから実質旅荷物だけだ。


「いつもすまないな」

「それは言わない約束だよ。おとっつぁん」

「……? 何言ってんだお前」

「……とりあえず、靴とか服とかを清潔魔術できれいにして~」


 俺はいつものようにジルおじさんの旅の準備を手伝った。


***


「じゃあな、レイン。達者で暮らせよ」

「ジルおじさんもね」


 ジルおじさんは昼過ぎ出発の商隊と一緒に出発していった。

 商業ギルドに入金や店舗明け渡しの作業を依頼しに行っていたため結構時間がかかってしまった。


 いつもは俺も一緒に門の近くまでついていくのだが、今日はジルおじさんの店から俺の本を運び出す作業があるのでこの町でお別れとなった。


「まあ、ほんとは空間魔術で収納しちゃうだけだから一緒に行ってもよかったんだけどね」


 俺は一度ジルおじさんの店に戻ってきてどんどん本を収納していく。

 この魔術は実に便利だ。

 なんてったって触れるだけで収納できるのだから。

 どの空間魔術の魔導書にも書いてあるから、古代魔術師文明の人間は結構使っていたんだろう。

 ものによっていろいろとカスタムされていて、俺は一番使いやすいものを使っている。


 俺の使っている収納では何が入っているかのリストも参照できて、取り出すのも楽々だ。

 だからこんな風に片っ端から入れていける。


 何入れたかわからなくなってもリストを見ればわかるんだから。


 数十分して俺はすべての本を収納魔術にしまい終えた。


「さて、そろそろ帰るか」


***


「あれ?」


 俺が家に帰ると、家の前に数台の馬車が止まっていた。


 俺の家は魔の森と町を挟んで反対にある。

 昔は俺の家が建っているあたりが魔の森の最前線だったのだが、じわじわと魔の森を削って今の最前線まで土地を広げたらしい。


 この国は魔の森を切り開いて穀倉地帯を作っている。

 なんでも、魔の森に近いほど作物が良く育つのだとか。


 いい加減職場の魔の森が遠くなってきていたのでこの家を引き払って魔の森の近くに引っ越そうかと現在検討中だ。


「めずらしいな。今日は来客の予定なんてなかったはずだけど……」


 馬車が豪華なのでおそらく貴族の誰かだろう。

 家紋のようなものが馬車の側面に書かれているが、正直貴族とか全然興味なかったのでどこの家の馬車かは見当もつかない。


 たまに王都の貴族なんかが魔石の買い付けがしたいとか言って俺のところに訪ねてくるが、魔石は全部軍が買い取っているので俺は一つも持っていない。

 おそらく今日もそのたぐいだろう。


 俺が家の前に立つと、扉の両脇に立った全身鎧の男が俺をにらんでくる。

 しかし、その鎧、重くないのだろうか?


「お前は誰だ?」

「レイン=ウォルフィードだけど? 俺の家に何の用?」

「貴様が?」


 全身鎧は俺のことを嘗め回すように見てくる。

 男にそんな風にみられても気持ち悪いだけだ。


「そこをどいてくれない? 早く家に帰りたいんだけど?」

「少し待て」


 全身鎧の一人が俺の家の中に入っていく。


 おいおい。

 家主を差し置いて人んちに勝手に入んなよな。


(っていうか。鍵はどうしたんだ? ちゃんとかけておいたよな?)


 日本人気質なので、部屋に鍵をかけていたのだ。

 正直、こんな辺境には誰も来ないのだが、なんとなくだ。


 部屋の中には家具くらいしかないしな。


 そう思って扉を見ると、扉にこじ開けたような痕跡が残っている。


(おいおい。勘弁してくれよ)


 どうやら、今日の客はかなり乱暴な客らしい。

 何事もなく終わればいいなと思いながら待っていると、俺の家の中から身なりの良い男性が出てきた。


 誰だこいつ?

 次の更新は明日になる予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 給料が銀貨10枚だったのが金貨になっている?
[気になる点] いつもすまないな」 「それは言わない約束だよ。おとっつぁん」 「……? 何言ってんだお前」 [一言] 会話の構成もすべってるし、 読む側も変な気分になるかな。 一言で言うと無理はするな…
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