遺跡に行ってみよう!①
「どう見ても扉だな」
「どう見ても扉ね」
俺たちはリノの案内で遺跡と思しき場所に来ている。
そこには人工的に作られたと思しき扉があった。
建物自体は魔の森の植物などに覆われているので全容は見えないが、間違いなく遺跡だろう。
なんか、崖に木製の扉がついているのはシュールレアリズムみたいでちょっと不気味だ。
おそらく木に見えるように加工しているだけで、素材としては別のものだろう。
ファンタジーものの小説なら、ドワーフとかハーフリングとかが中から出てきそうだが、ここは魔の森の中だ。
そんなことはあり得ないだろう。
「リノ、とりあえず罠がないか調べてから開けてみてくれるか?」
「えぇ!? 俺がやるのか?」
「当然だろ? 見つけたのはリノだし、リノはこのパーティの斥候なんだから」
不気味でも遺跡なら調べないわけにはいかない。
扉を罠探知して、罠があるようならこの崖を掘り返して別の入り口を探すことになるだろう。
『罠探知』は俺がやってもいいのだが、それではリノのためにならないだろう。
リノは斥候としてそこら辺を一人でできるようになってほしいし。
まあ、『罠探知』は念のためリノにばれないようにかけてみて罠がないことは確認済みなんだが。
あるかもしれないと思ってやってもらった方がいいだろう。
「……わかった。やってみる! ……『罠探知』」
リノが俺たちの前に出て、扉の前まで行く。
そして、『罠探知』を発動する。
しばらく反応を待った後、不安そうな顔で俺の方へと振り返った。
「……レイン兄ちゃん。たぶん。何もないと思う……」
「わかった。じゃあ、次は『解錠』の魔術で扉の鍵を開けてくれ」
俺がそういうと、リノはほっとしたような顔で息を吐く。
『罠探知』の魔術は罠が何もなければ反応がまったくない。
魔術が成功したのか、罠がないのか判断しづらいのだ。
リノには何度も『罠探知』の練習をさせているけど、初めての本番で自信が持てなかったのだろう。
問題ないと安心できたためか、自信満々の顔で門のほうに向きなおる。
「わかった! ……『解錠』」
今度はしっかりと解錠の手ごたえが得られたのか、笑顔で俺たちの方へ向き直る。
「レイン兄ちゃん! ちゃんと外れた!!」
「おぉ。さすがリノだ」
「えへへ~!」
駆け寄ってくるリノの頭を撫でながら褒めると、犬のようにじゃれついてくる。
初めての本番でリノも結構緊張していたんだろう、いつもよりスキンシップが激しい。
「じゃあ、アリア、扉を開けてみてくれ」
「わかったわ」
リノが満足するまで頭を撫でてあげた後、今にも入りたそうにうずうずしていたアリアに入っていいと許可を出す。
入りたいとは思っていてもさすがに全員揃う前に遺跡に入るのはまずいと思っていたのだろう。
ギギギと軋むような音を立てて扉は開いていく。
中から魔物が出てくる気配はない。
遺跡の中は廊下が奥に向かって伸びている。
その廊下には左右にひとつずつと突き当りにひとつ合計三つの扉がある。
物がまったくなく、生活感こそないが、民家の一軒だといわれれば一番しっくりくる雰囲気だ。
「誰かの家、かしら?」
「そんな気がするな」
遺跡になる建物はもともとが頑丈なものが多い。
だから、大体は図書館とか博物館とか研究所とか学校とか公共施設の場合が多い。
ごくまれに貴族の邸宅のようなものも遺跡になるようなことはあるが、何もない民家が遺跡になることは稀だ。
まあ、稀なだけでないわけではない。
偶然、魔の森になった際に生き残ったり、その家を建てた際に頑丈な作りにしていれば遺跡になる可能性は十分にある。
俺は初めて見たけど。
この家も頑丈な作りだったんだろう。
ここは魔の森の浅い部分でもあるし、魔の森の浸食力が奥より弱いのも原因かもしれない。
「まあ、調べてみればわかるだろ。リノ。『罠探知』をしながら先頭になって中を探索してくれるか?」
「わかった!」
さっき『解錠』の魔術を成功させたことで自信がついたのか、嬉々として先頭を歩いていく。
「罠はないみたいだぞー!」
元気いっぱいにそういうリノの後を俺たちは苦笑いしながら追った。
***
「ほんとに誰かの家みたいね」
「そうだな」
この家は本当に民家の様だった。
一番奥の扉はリビングルームに続いており、廊下の左側にあった扉が寝室、右側の扉が書斎に続いていた。
どの部屋も物が残されており、この家の持ち主はどうなったのかわからないが、家には帰ってこなかったのだろう。
「それにしてもよかったわね、レイン。魔術師文明の本が手に入って」
「そうだな。まさかこんなところでこんなにたくさんの本が手に入るとは思ってなかった」
リビングと寝室からは生活雑貨のようなものしか手に入らなかったが、書斎からは多くの書籍が手に入った。
魔術師文明の後期は本は紙ではなく電子書籍のようなデータでやり取りしていたらしく、図書館のような場所でも大した数の本が手に入らないのにこの家にはなんと十冊の本が所蔵されていた。
ほかにも本はあったようだが、それらは劣化して読めるものではなかったが、この十冊に関しては魔術師文明の中期に作られたらしく、『状態保存』の魔術がかかっていて読める状態だったのだ。
本当にラッキーだ。
「おーい。レイン兄ちゃん。こっちに何かありそう~」
俺が上機嫌で本の内容を確認していると、リノが書斎の奥から声をかけてくる。
「何かあったのか?」
「なんか、この棚の奥に扉っぽいものがあるみたいなんだ」
俺が本をしまってリノのところまで行くと、リノは一つの棚の後ろをのぞき込んでいる。
どうやら、リノがのぞき込んでいる棚の後ろに扉があってその奥にも部屋があるらしい。
「どれどれ?」
俺もリノの真似をしてたなの後ろをのぞき込んでみると、そこには扉のようなものがある。
こんなものよく見つけたな。
「ほんとだな。この棚動かせるのかもしれないな」
「本当か!?」
こういうギミックは誰でも大好きだ。
俺がそういった瞬間、リノは棚をくまなく調べだす。
すると、棚にはキャスターがついていて、横にスライドできることが分かった。
「じゃあ、動かすぞ?」
「おう!」
「「せーの!」」
俺とリノは協力して棚をスライドさせた。
そうすると、棚の後ろには黒い扉が姿を現した。
「おぉ! 開けてみようぜ!!」
「待て、リノ! 『罠探知』」
「あ!」
俺が注意すると、リノはびくりと肩を震わせる。
そしてシュンとして俺のほうに向きなおる。
「ごめんなさい」
「いいさ。俺もこういう隠し部屋とかは好きだからな。気持ちはわかる。でも、こういうところこそ罠が隠れていることが多いから十分注意が必要だぞ?」
「はい……」
シュンとするリノの頭を軽くなでる。
俺だって男の子だ。
こんな面白そうなものを見つけてしまえばテンションが上がっちゃうのはわかる。
「そこまで気にする必要はない。次から気を付ければいいだけだ。今は俺もいるしな」
「うん!」
俺は少し元気を取り戻したリノが出てきた扉に向かって『罠探知』の魔術を使うのを見守った。
明日も二話投稿します。
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