魔術を習おう!③
魔力の流れというのがなかなか厄介で、何もなしには感覚がつかめない。
それを魔道具があればかなりショートカットできる。
だが、魔道具は高価なもので、貴族や金持ちしかもっていない。
金を持たないものにはこの「魔力を使う感覚を知る」というのが最初にして最大の関門になるのだ。
俺がそんなことを軽く説明していると、やっと魔道具をちゃんと手に取ったリノが質問してくる。
「なあ、レイン兄ちゃん! 魔力を込めるってどうやるんだ?」
どうやら、彼女は魔術のうんちくよりどうやれば自分に魔術が使えるかのほうが気になるようだ。
まあ、当然か。
「魔道具を手に取って自分の中にある魔力を魔道具のほうに流そうとするとできる。こればっかりは感覚的なものだからうまく説明できないんだよな」
「むぅ。そうなのか」
「でも、その魔道具には軽くだけど魔力を吸引する力があるから普通の魔道具で練習するよりは簡単にできるはずだ」
「そうなのかー」
リノは魔道具を真剣に見つめ始めた。
「あのー。この魔道具を動かしたら、何やら文字が出てきたのですが、これはどういう意味があるのですか?」
今度はミーリアが質問してくる。
彼女は簡単な魔術はもう使えるそうなので魔道具を使う必要はなかったのだが、どういう魔道具か気になったのか魔道具を動かしてみたようだ。
――――――――――
火:0
風:0
水:0
土:0
光:2
闇:0
無:1
――――――――――
魔道具にはそんな文字が映し出されている。
「これは術者の属性ごとの魔力の量だよ。最近はあまり知られてないみたいだけど、体内の魔力にも属性があるんだよ。その属性の魔術ばかり使っていれば勝手にその属性の魔力が増えてくるし」
「え? じゃあ、自分の持っていない属性の魔術は使えないんですか?」
「いや。そんなことはないよ。慣れれば体内の魔力を別の魔力に変換できるようになる。まあ、みんな無意識にやっているようだけど」
大体の人は何もしなければほとんどの体内魔力が無属性と自分の得意属性になる。
どうやら、ミーリアは光属性の魔術が得意なようだ。
「なるほど。そんな風になるのか! 見てろ! 俺もすぐに出してやるぜ!!」
リノはミーリアの起動した魔道具の様子を見て、気合を入れだした。
だが、結局この日三人は魔道具を使えるようにはならなかった。
まあ、もうすぐ冬でやることもあまりないようだし、地道にやっていけばいいか。
***
「じゃあ、その魔道具は預けておくから、手が空いたときにでも練習しておいて」
「練習しておいてッて、レインはどこかに行くつもりなの?」
俺が家を出ていこうとすると、アリアに呼び止められる。
「あぁ。そう遠くには行かないよ。すぐに村が守れるようにしておく。家も村と魔の森の間に建てておくから」
「どうして村の外に住む必要があるのよ」
「どうしてって、俺みたいなやつが村の中にいるといやだろ?」
聖王国では対魔貴族は村の中に住むことを許されなかった。
まあ、自分たちが束になっても勝てない存在に安全であるはずの村の中にいてほしくなかったのだろう。
町に入る際もほかの人より入念にチェックされるし、家を建てる位置も村から見えないところにしてほしいとの懇願を受けたこともある。
俺が真顔でそういうと、アリアは仕方なさそうに息を吐く。
「あなたねぇ。村の仲間に村にいてほしくないなんて言うわけないじゃない」
「いや、でも……」
俺とアリアが話をしていると、服が引っ張られる。
引っ張ったほうを見ると、スイが俺のほうをじっと見上げていた。
「私は、レインのこと、怖いとは、思わない。レインは、悪いこと、する人じゃ、ないと思うから」
「そうだぜ! レイン兄ちゃん! 一緒に住もうぜ!!」
「うわ!」
今度はリノが俺の足にしがみついてくる。
この状態だと動くことができないんだが。
助けを求めるようにキーリとミーリアのほうを見ると、二人とも微笑ましいものを見るように俺のほうを眺めるだけで助けてくれる様子はない。
味方がいないことを悟ると俺はあきらめることにした。
「はぁ。じゃあ、悪いんだけど、ここに住ませてもらおうかな」
「やったーーー!!」
「男性の部屋は、こっち」
俺はこの後二人に引きずられるように家の隅々まで案内された。
女部屋にまで案内しようとしたので、そこはアリアとキーリがブロックした。
別に残念だとかは思っていない。
***
「できた」
「お。ちゃんとできてるな」
翌日、最初に魔道具を起動できるようになったのはスイだった。
――――――――――
火:0
風:0
水:1
土:0
光:0
闇:0
無:1
――――――――――
どうやら、スイは水属性が得意らしい。
「スイ。魔力を使う感覚はわかるか?」
「……なんと、なく?」
スイは首をかしげながらそういう。
まあ、最初はそんなもんだ。
「じゃあ、とりあえず、魔術を使ってみようか。水属性の基礎魔術『水生成』から始めよう」
そういって俺がコップをテーブルの上に置くとアリアがガタンと音を立てて立ち上がった。
「ちょっと待って。最初は一番簡単な『身体強化』の魔術からやるんじゃないの?」
「え? 『身体強化』の魔術は結構むずかしめの魔術だぞ? 消費魔力量がどうしても多くなるから最低でも無属性の魔力が1以上ないと使えない。慣れてくれば感覚で魔力の属性変換ができるようになるけど、属性アリから無属性は難易度が高い部類の変換になる。変換効率も悪いしな。できない人がいるって時点で最初にやる魔術としては不適格だろ」
「……そんな」
アリアは絶望したように俯く。
俺はそんなアリアの様子に気づかず、話を進める。
「まあ、ほとんどの人は無属性の魔力は持ってるからこの魔道具みたいに魔力の性質を測る方法がない場合は【身体強化】の魔術を最初にやるのは理にかなっているとはいえるかもしれない。けど、無属性を持たない人にまで【身体強化】の魔術から使わせようとするなら、それは教え方が間違っているとしか言えないな」
「……っ!」
「え? アリア!!」
バンと音を立てて扉を開きアリアが家の外に出て行ってしまった。
俺が彼女を追いかけようとすると、誰かが俺の肩に手を置く。
「彼女のことは私が何とかするから、あなたはスイちゃんとリノに魔術を教えてあげて」
「……わかった」
キーリが真剣な顔でそういうので、ここは彼女に任せることにして俺は魔術の講義を続けた。
(そうか。俺は彼女たちのことを何も知らないんだな……)
俺はしばらくの間、アリアの出て行った扉をじっと見つめていた。
昼更新!
次話は夜に更新予定です。




