思わぬ人との再会、そして……①
本当は主人公視点で書くつもりだったのですが、上手く描けなかったので、「閑話 村の偵察」で出てきたアニキが戦場に放り込まれることになりました。
アニキ! ごめん!
「(ア、アニキ……)」
「(しー! 黙ってろ!)」
アニキと呼ばれた男は隣にいた弟分の頭を地面に押さえつけながら、自分自身も地面に頭を埋もれさせる勢いで頭を下げていた。
それも当然だ。
目の前に自分の命など容易く奪ってしまえる存在が現れたのだ。
他の兵士も同様に平伏しているようだ。
声どころか身じろぎの音を上げる者もいない。
もし音でも立てて目に止まり殺されてしまったらたまったものではない。
その場所は昼間にもかかわらず、怪物から身を隠す夜の森のような静けさが広がっていた。
(まさか、『天誅』が現れるなんて……)
『天誅』については子供でも知っている。
気分で街や国を滅ぼしてしまう存在だ。
小さい頃は起きていると天誅がやってきて神罰を下されると何度も言われた。
それが子供だましではないと知ったのは裏社会に入ってからだ。
教会に隠れて禁制品なんかをやり取りしていると『天誅』が現れて、製造元の村ごと葬られたなんて話は年に一回くらいは聞く。
(くそ! こんなことになるなら鉱山にでも出稼ぎに行けばよかった!)
アニキは少し前に魔の森の近くの村の偵察に失敗した。
あの場所で人型の魔物を見たと報告したのだが、誰一人信じてくれなかったのだ。
その上、あまりに急いでいたため、途中の町で馬車を回収せずに王都に戻ってしまった。
報告した後に馬車を取りに向かったのだが、その時には馬車の預かり期限が過ぎており、馬車は回収できなかった。
残ったのは借金だけ。
その借金を返すためにこの出兵に参加した。
こんなことになるなら参加しなかったのに!
……そういえば、マスターがそれとなく参加しないほうがいいといっていたような。
「見苦しいな」
(こ、殺される!)
無音のざわめきとともに絶望が兵士全体に広がる。
言い伝えが定かなら、『天誅』は気分で人を殺すと聞く。
このままでは殺されてしまう。
逃げるべきか、このまま息を殺しているべきか。
「まぁまぁ。良いではないですか。下民は下民なりに神の意思を受けて魔物と戦ったのです。そのことは評価するべきですよ」
今度は若い女性の声がした。
その女性は擁護してくれているようだ。
アニキは女性の意見が通るように神に祈りをささげる。
こんなに真剣に神に祈ったのはこれが初めてかもしれない。
「貴女がそうおっしゃるのであれば……」
「でもそうですね。汚いというのは同意します。ならこれでどうでしょう? 『回復』『浄化』」
女性が呪文を唱えると魔物と戦っていた時についた傷がみるみるいえていく。
それだけでなく、これまでの行軍で臭くなっていた革鎧の匂いまで消えていた。
周りからは「ありがとうございます」という声があちらこちらから聞こえてくる。
「貴女は相変わらずお優しい。手間を惜しまずこのような下民に施しを与えるなんて」
「噂にあった魔物を操っているものがどこか聞く必要があるでしょ? 周りのモノを全て処分してしまう方が手間ですよ」
「なるほど。聡明な判断だ」
「少し聞いてみましょう。そこの黒い鎧を着ている者」
「(黒い鎧!)」
アニキは父から受け継いだ黒い革鎧をきて参陣していた。
一部の兵は貴族様から防具を貸し与えられるらしい。
だが、軍隊全員の防具を用意することははっきり言って不可能だ。
準備できるものは可能な限り自分で鎧を準備することになっている。
準備できないものには量産品の鎧が貸与されるが、そういう鎧は重いわりに脆い。
脆いのは仕方ないが、重いのは大きな問題だ。
長期行軍となれば数日から数週間防具を着たままになるのだ。
少しでも上質な防具は万金の価値を持つ。
アニキの持つ防具も貴族様が使うものには遠く及ばないが上質な皮の端材を繋ぎ合わせたものだ。
なんでも先祖が皮防具職人だったらしく、貴族様から制作依頼を受けた際に出たゴミを使ってつなぎ合わせて作ったらしい。
かなりいい素材のため、軽くて頑丈だ。
この行軍の間も近くの兵に羨まれた。
それがまさかこんなことになるなんて。
「どうしました? 聞こえていないのですか?」
「はい!」
アニキは直立する。
すぐ目の前に白い法衣を着た女性が立っていた。
ベールのようなもので隠れているため、顔は伺いしれない。
だが、声や体形的に女で間違いないだろう。
(目の前の存在が男か女かなんて関係ないか)
自分の命をたやすく奪ってしまえる存在だ。
男か女かはそこまで気にする必要もないだろう。
「良かった。聞こえているようですね。この魔物は何者かに操られていたと聞きましたが事実ですか?」
「はい! 複数の魔物が一斉に襲ってきました! 間違い無いかと!」
「そうですか。情報通りですね。どちらからきたかわかりますか?」
「はい! あちらの方から来ました!」
アニキはそう言って北の方を指さす。
「そうですか。ではあちらの方に行ってみましょう」
「わかりました」
「あなたには何か褒美を取らさないといけなさそうですね」
そう言って女性はアニキの方を見る。
アニキはびくりと肩を振るわせる。
内心では褒美とかどうでもいいので早くどっかに行ってくれとおもていたが、そんなことを言えばどうなるかわからない。
「ですが、あいにく持ち合わせがありません。そうですね……」
「恐れながら! お願いがあります!」
俺が戦々恐々と言葉を待っていると隣で平伏していた騎士がいきなり声を上げた。
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
主人公視点で書いてボツ、アリシア視点で書いてボツ、過去改変をしようかと思ってボツとボツだけで数万字以上摘みかさねた結果、アニキが戦場に放り込まれることになりました。
ほかの人が同じようなことをあとがきに書いていてそんなんうそやろと思ってたのですが、実際にあり得るんですね。
もしかしたら修正を入れるかもしれません。
【ご報告】
おかげさまで2021年11月2日に書籍発売しました。
Web版読者の方にも楽しんでいただけるように加筆修正を行っています。
そして、皆様のおかげで何とかギリギリ2巻を出させていただけることとなりました!
ありがとうございます!
けっこうギリギリですので、まだ買っていないという方はどうかお近くの書店で買って応援していただけると嬉しいです。
3巻以降が出せるかに関わってきます。
また、電子雑誌、月刊少年マガジンRで天音ナツシロ先生によるコミカライズが始まりました。
面白いのでそちらもぜひ読んでみてください。




